・・・それなら、なぜクロポトキンやマルクスや露国の革命をまで引き合いに出して物をいうかとの詰問もあろうけれども、それは僕自身の気持ちからいうならば、前掲の人人または事件をああ考えねばならなくなるという例を示したにすぎない。気持ちで議論をするのはけ・・・ 有島武郎 「片信」
・・・の名が引き合いに出されるが、僕自身の不平があったり、苦痛があったり、寂しみを感じていたりする時などには子供のある妻はほとんど何の慰めにもならない。一体、わが国の婦人は、外国婦人などと違い、子供を持つと、その精魂をその方にばかり傾けて、亭主と・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・死んだ女房の後釜に据えた途端に没落したが、おきんは現在のヤトナ周旋屋、亭主は恥をしのんで北浜の取引所へ書記に雇われて、いわば夫婦共稼ぎで、亭主の没落はおきんのせいだなどと人に後指ささせぬ今の暮しだと、引合いに出したりした。「維康さん、あんた・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・「貰わにゃ引き合いません。」 負傷者は、それ/″\、自分が何項症に属するか、看護長に訊ねるのであった。何項症であるか、それによって恩給の額がきまるのだ。そんな場合、栗本には、彼等が既に国家に対して債権者となっているように見えてきた。・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・もう一度チヤツプリンを引き合いに出すが、「黄金狂」で、チヤツプリンは片方の靴を燃やしてしまつたので、藁か布切れかでトテモ大ツかく足を包んでいた。今いうその出てくる者達が、どれもそれとそつくり同じ「足」をしているのだ。 夏の間彼等は棒頭に・・・ 小林多喜二 「北海道の「俊寛」」
・・・やがて二人で大立廻りをやって、女房は髪を乱して向いの船頭の家へ逃げこむやら、とうと面倒なことになったが、とにかく船頭が仲裁して、お前たちも、元を尋ねると踊りの晩に袖を引き合いからの夫妻じゃないか。さあ、仲直りに二人で踊れよおい、と五合ばかり・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・アンティフォンは大胆にもそれを引き合いに出して、ディオニシアスにあてつけを言ったのでした。 また或とき、ディオニシアスは、友人のドモクレスという人が、たった一日でもいいから、ディオニシアスのような身分になって見たいと言って羨んだというこ・・・ 鈴木三重吉 「デイモンとピシアス」
・・・ これに和してモスコフスキーは、同時に立派な鍛冶でブリキ職でそして靴屋であった昔の名歌手を引合いに出して、畢竟は科学も自由芸術の一つであると云っている。しかしアインシュタインが、科学それ自身は実用とは無関係なものだと言明しながら、手工の・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・近ごろ相対原理の発見に際してまたまたニュートンが引き合いに出され、彼の絶対論がしばしば俎の上に載せられている。これは当然の事としても、それがためにニュートンを罪人呼ばわりするのはあまりに不公平である。罪人はもっともっとほかにたくさんある。言・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・ 友人たちとこの映画のうわさをしていたとき、居合わせたK君は、坊間所伝の宮本武蔵対佐々木巌流の試合を引き合いに出した。武蔵は約束の時間を何時間も遅刻してさんざんに相手をじらしたというのである。武蔵もまたどこかユダヤ人のような頭の持ち主で・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
出典:青空文庫