・・・これらを一々引き合いに出して連句の場合に付会しようとしても、それはおそらく始めから無理であるにきまっているが、しかし連句の相次ぐ二句の接触によって甲句に含むいろいろの組成要素と乙句に含むそれらとの関係から、いわゆる付き過ぎたり離れ過ぎたりす・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・支那の人名地名を用い、支那の古事風景等を詠ずる場合はもちろん、わが国のことをいう引合いに出されたるも少からず。その句、行き/\てこゝに行き行く夏野かな朝霧や杭打つ音丁々たり帛を裂く琵琶の流れや秋の声釣り上げし鱸の巨口玉や・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・自分の好ききらいを、自分の心から黙殺してかかるのではなくて、好ききらいははっきり掴んでいる上に自分のこの好きさ、このきらいさ、それは自分のどんな感情のありようとこの映画の俳優の演技のどんな性質とが或は引き合い、或は撥き合うのかと、その両方か・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・をやっつけるために第一線に出動し、手紙の形式で同志藤森、須井を初め、同志川口、鈴木、黒島などを引き合いに出し、或いは「おこれ、おこれ」と叫んでいるのは、まことに奇妙である。多分今年の始めか、昨年末であったか、同志林が、同志小林多喜二について・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・ お石は、何かにつけて金を貰って来なかったことを引合いに出して、子供がちょっと物をねだることまで皆彼女の腹癒せの材料にされたのである。「汝等あまでたかってからに、こげえな貧乏おっかあをひでえ目に会わせくさる! あんでも父っちゃん・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・サント・ブウヴは、大体同じ批評の後バルザックがせめて古典文学の文体について一つ二つの法則を知っていたならば少しはましであったろうにと論をすすめ、ペトロニウスを引合いに出したりして前世紀文学の文体の中庸と新古典主義時代の内容とを求め、ジョルジ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・そして、対外的には反ソヴェト的にゴーリキイがそこに引き合いに出されているのを見た。私はゴーリキイが世界的にもっている影響力の深大さに打たれた。一九二八年のゴーリキイのソヴェト訪問の結果は、世界のすべての資本主義国が卑しい期待にがつがつして待・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
出典:青空文庫