・・・ 支那兵が、悉く、苦力や農民から強制的に徴募されて、軍閥の無理強いに銃を持たされているものであることは、彼等には分りきっていた。それは、彼等と同じような農民か、でなければ労働者だった。そして、給料も殆んど貰っていなかった。しかし、彼等に・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・台湾の蕃人に対しては、日本帝国主義のやり口は一層ひどかったのだ。強制的に蕃人の作ったものを徴発したのだ。潭水湖の電気事業工事のために、一日十五六時間働かして僅かに七銭か八銭しか賃銀を与えず、蕃人に労働を強要したのだ。そしてその電気事業のため・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・生徒も先生も不断にこの強制的に定められた晴れの日の準備にあくせくしていなければならない。またその試験というのが人工的に無闇に程度を高く捻じり上げたもので、それに手の届くように鞭撻された受験者はやっと数時間だけは持ちこたえていても、後ではすっ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・われわれ人間はただ自分たちの享楽と満足のために、かわいがるつもりで知らず知らずあひるに不自然な生活を強制している。しかし、こうして人間に慣れ過ぎて水を離れた陸上をうろついていると、いつかはまたどこかの飼い犬か以前の黒犬かが来て一口にかみ殺す・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・いつか行ったとき無断で没収され、そうして強制的にせんたくを執行された上で返してくれたことがあった。そのネルの襟巻と四方太氏の玉子色の上等の襟巻との対照もおかしいものの一つではあったかもしれない。 夏目先生は四方太氏のきちんとした日常をう・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
・・・しかしながら当局者はよく記臆せなければならぬ、強制的の一致は自由を殺す、自由を殺すはすなわち生命を殺すのである。今度の事件でも彼らは始終皇室のため国家のためと思ったであろう。しかしながらその結果は皇室に禍し、無政府主義者を殺し得ずしてかえっ・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・否でも応でも、彼らは自己の迷信的恐怖と実在性とを、私に強制しようとするのであった。だが私は、別のちがった興味でもって、人々の話を面白く傾聴していた。日本の諸国にあるこの種の部落的タブーは、おそらく風俗習慣を異にした外国の移住民や帰化人やを、・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・その証拠にはご覧なさい鶏では強制肥育ということをやる、鶏の咽喉にゴム管をあてて食物をぐんぐん押し込んでやる。ふだんの五倍も十倍も押し込む、それでちゃんと肥るのです、面白い位肥るのです。又犬の胃液の分泌や何かの工合を見るには犬の胸を切って胃の・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・「さあいずれ模様を見まして、鶏やあひるなどですと、きっと間違いなく肥りますが、斯う云う神経過敏な豚は、或は強制肥育では甘く行かないかも知れません。」「そうか。なるほど。とにかくしっかりやり給え。」 そして校長は帰って行った。今度・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・朝鮮の人々の日本名への改姓が強制されたと同じに――。しかし、日本の大学でも兵営でも、部落の人々の遭遇する運命は多難であった。そして現在も決して偏見がとりのぞかれたとはいえない。松本治一郎氏の天皇制に対するたたかいとパージがよくその消息を告げ・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
出典:青空文庫