・・・そしてその輝かしい微苦笑には、本来の素質に鍛錬を加えた、大いなる才人の強気しか見えない。更に又杯盤狼藉の間に、従容迫らない態度などは何とはなしに心憎いものがある。いつも人生を薔薇色の光りに仄めかそうとする浪曼主義。その誘惑を意識しつつ、しか・・・ 芥川竜之介 「久米正雄」
・・・ 一滴でもアルコールがはいったら最後、あなたはへべれけになるまで承知しないんだから折角ひっくくって来たんだから、こっちはあくまで強気で行くよ。その代り、原稿が出来たら、生ビールでござれ、菊正でござれ、御意のままだ。さア、書いた、書いた」・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・しかもこの一手は、我の強気を去らなくては良い将棋は指せないという坂田一流の将棋観にもとづいたものでありながら、一方これくらい坂田の我を示す手はないのである。いわば坂田の将棋を見てくれという自信を凝り固めた頑固なまでに我の強い手であったのだ。・・・ 織田作之助 「勝負師」
・・・とおかみさんは強気のひとらしく、甲高い声で拒否し、「売り物じゃないんだ。とおしてくれよ、歩かれないじゃないか!」人波をかきわけて、まっすぐに私のところへ来て私のとなりに坐り込みました。この時の、私の気持は、妙なものでした。私は自分を、女の心・・・ 太宰治 「たずねびと」
・・・ 善吉はにっこりして左右の肩を見返り、「こいつぁア強気だ。これを借りてもいいのかい」「善さんのことですもの。ねえ。花魁」「へへへへへ。うまく言ッてるぜ」「よくお似合いなさいますよ。ほほほほほ」「はははは。袖を通したら、お・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
出典:青空文庫