・・・ 水野は、これだけはご免だとまじめで言う、いよいよ他の者はこいつおもしろいと迫る、例の酒癖がついに、本性を現わして螺のようなやつを突きつけながら、罰杯の代にこれだと叫んだ。強迫である。自分はあまりのことだと制止せんとする時、水野、そんな・・・ 国木田独歩 「遺言」
・・・特に強迫観念が烈しかった。門を出る時、いつも左の足からでないと踏み出さなかった。四ツ角を曲る時は、いつも三遍宛ぐるぐる回った。そんな馬鹿馬鹿しい詰らぬことが、僕には強迫的の絶対命令だった。だが一番困ったのは、意識の反対衝動に駆られることだっ・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・いわんや強迫教育法の如き、必ず政府の権威によりてはじめて行わるべきのみ。 ただし我が輩はもとより強迫法を賛成する者にして、全国の男女生れて何歳にいたれば必ず学につくべし、学につかざるをえずと強いてこれに迫るは、今日の日本においてはなはだ・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・海軍武官はやがて日本の新聞もそれにならうであろうこと、それによって失われるであろう自分の名誉という強迫観念によって、古典的なサムライの手法をもって生命を絶った。当局者の一人がその時、事件に対するヨーロッパ人らしい意外の感じを外交的表現によっ・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ 激しい強迫観念に襲われて、あらゆる理性を失ってしまった禰宜様宮田は番頭の言葉を聞き分けることさえ出来ないようになった。 まして、それ等のうちに含まれている弱点などを考えることなどは出来得ようもない。 彼はただ恐ろしい。身にかか・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫