・・・また、それを弾ずる人の名手たるを要しない。無心に子供の吹く笛のごときであってもいゝ。また、林に鳴る北風の唄でもいゝ。小鳥の啼声でもいゝ。時に、私達は、恍惚として、それに聞きとられることがある。そして、それは、また音楽について、教養あるがため・・・ 小川未明 「名もなき草」
・・・それに調子が単純で弾ずる人に熱情がないからなおさらいかん。自分は素人考えで何でも楽器は指の先で弾くものだから女に適したものとばかり思うていたが中々そんな浅いものではない。日本人が西洋の楽器を取ってならす事はならすが音楽にならぬと云うのはつま・・・ 寺田寅彦 「根岸庵を訪う記」
・・・これを弾ずる原動力は句の「はたらき」であり「勢い」でなければならない。 発句は物を取り合わすればできる。それをよく取り合わせるのが上手というものである。しかしただむやみに二つも三つも取り集めてできるというのではない。黄金を打ち延べたよう・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
出典:青空文庫