・・・ところが細君は恐悦の余り、夜会の当夜、踊ったり跳ねたり、飛んだり、笑ったり、したあげくの果、とうとう貴重な借物をどこかへ振り落してしまいました。両人は蒼くなって、あまり跳ね過ぎたなと勘づいたが、これより以後跳方を倹約しても金剛石が出る訳でも・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・事件は、数名の共産党員を検挙して、その中に真犯人があるように宣伝されています。しかし、次の事実は事件の核心に関係しているにもかかわらず、商業新聞には発表されていません。それはこういう事実です。事件当夜、立川市の警察署長は立川国警から電話をう・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ かりに、自分が当夜の主人公であり、画業何十年かの果にこういう席のわり当ての還暦の祝を催されたとしたら、私は戦慄を禁じ得なかったろうと思う。 芸術家は孤独をおそれない勇気を常にもたなければならない。けれども、おそるべき性質の孤独があ・・・ 宮本百合子 「或る画家の祝宴」
・・・そういって竹内被告は、七月十五日事件当夜のてんまつを詳しく語った。「まったく単純な労働者の怒りを見せて、当局を反省させてやろうという気持と、電車を動けなくすれば全国的なストに入り、当局もかならずまけるにちがいないと信じてやったのですが、あん・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・けれども此の南北二家は親戚関係の成り立った当夜から、既に絶縁同様になっていた。と云うのは、秋三の祖父が、血統の不浄な貧しい勘次の父の請いを拒絶した所、勘次の母は自ら応じてその家へ走ったことから始まった。祖父の死後秋三の父は莫大な家産を蕩尽し・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫