・・・その雲の国に徂徠する天人の生活を夢想しながら、なおはるかな南の地平線をながめた時に私の目は予想しなかったある物にぶつかった。 それははるかなはるかな太平洋の上におおっている積雲の堤であった。典型的なもくもくと盛り上がったまるい頭を並べて・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・歴山王、ナポレオンの功業を察し、ニウトン、ワット、アダム・スミスの学識を想像すれば、海外に豊太閤なきに非ず、物徂徠も誠に東海の一小先生のみ。わずかに地理歴史の初歩を読むも、その心事はすでに旧套を脱却して高尚ならざるを得ず。いわんや彼の西洋諸・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・かつ漢学は蕪村が少年の時にむしろ隆盛を極め、徂徠一派は勃興したるなり。蕪村は十分に徂徠の説を利用し、もって腐敗せる俳句に新生命を与えたるを見る。蕪村は徂徠ら修辞派の主張する、文は漢以上、詩は唐以上と言えるがごとき僻説には同意するものにあらざ・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・中江藤樹、熊沢蕃山、山鹿素行、伊藤仁斎、やや遅れて新井白石、荻生徂徠などの示しているところを見れば、それはむしろ非常に優秀である。これらの学者がもし広い眼界の中で自由にのびのびとした教養を受けることができたのであったら、十七世紀の日本の思想・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫