・・・ ああ、考えても御覧なさい。若しスバーが水のニムフであったなら、彼女は、蛇の冠についている宝玉を持って埠頭へと、静かに川から現れたでしょうに、そうなると、プラタプは詰らない釣などは止めてしまい、水の世界へ泳ぎ入って、銀の御殿の黄金作りの・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・』僕の足もとに膝まずいて、君が許せないと感じたものを白状して御覧。君は、そういう場合、まるで非芸術のように頑固で、理由なしに、ただ、左を右と言ったものだが、温良に正直にすべてを語って御覧。誰も聞いていないのだよ。一生に最初の一度。嘘でも、ま・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・そこでこういう場合は、いろいろ六ヶしいことがあるが、簡単に説明すればこうだ、皆さんこの外どういうことがあるか考えて御覧なさいといった風にして、彼等の求知心を強からしめ、研究的態度に出でしむるようにありたい。科学的の知識はそうそうたやすく終局・・・ 寺田寅彦 「研究的態度の養成」
・・・ ××大将は戦地へ出向く連中から、電報を御覧になって引還してお出でになって、私もその時お目にかかったがね。広い書院は勲章や金モールの方で一杯だ。そこへ私にも出ろと仰ゃって下さるんだけれど、何ぼ何でも状が状だから出る訳に行きゃしねえ。・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・っと隣へ往くにも関所があり、税関があり、人間と人間の間には階級があり格式があり分限があり、法度でしばって、習慣で固めて、いやしくも新しいものは皆禁制、新しい事をするものは皆謀叛人であった時代を想像して御覧なさい。実にたまったものではないでは・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・案内者は平気な顔をして厨を御覧なさいという。厨は往来よりも下にある。今余が立ちつつある所よりまた五六段の階を下らねばならぬ。これは今案内をしている婆さんの住居になっている。隅に大きな竈がある。婆さんは例の朗読調をもって「千八百四十四年十月十・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・あの女は肺結核の子宮癌で、俺は御覧の通りのヨロケさ」「だから此女に淫売をさせて、お前達が皆で食ってるって云うのか」「此女に淫売をさせはしないよ。そんなことを為る奴もあるが、俺の方ではチャンと見張りしていて、そんな奴あ放り出してしまう・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・「それ御覧。それだもの。平田が談話すことが出来るものか。お前さんの性質も、私はよく知ッている。それだから、お前さんが得心した上で、平田を故郷へ出発せたいと、こうして平田を引ッ張ッて来るくらいだ。不実に考えりゃア、無断で不意と出発て行くか・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・こうは申しますが、実はあんな夢のような御成功が無くたって、大切なる友よ、わたくしはあなたの事を思わずにはいられませんのでした。御覧なさい。あなたをお呼掛け申しまする、お心安立ての詞を、とうとう紙の上に書いてしまいました。あれを書いてしまいま・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・「おやいいものを戴いて、この中には何が這入ってるだろう、あけて御覧んなさい。おやいいもんだネー。オヤもうお帰でございますか。」「おい君暫く逢わなかったネー。」「やあ珍らしい。まアお目出とう。」「君はいつから足が立つようになったのだ。僕は・・・ 正岡子規 「初夢」
出典:青空文庫