・・・ それがために、しかしわが家ながら、他家のごとく窮屈に思われ、夏の夜をうちわ使う音さえ遠慮がちに、近ごろにない寂しい徹宵の後に、やッと、待ち設けた眠りを貪った。 二一 子供の起きるのは早い。翌朝、僕が顔を洗うころ・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・なく気に掛ってその晩、ドウセ物にはなるまいと内心馬鹿にしながらも二、三枚めくると、ノッケから読者を旋風に巻込むような奇想天来に有繋の翁も磁石に吸寄せられる鉄のように喰入って巻を釈く事が出来ず、とうとう徹宵して竟に読終ってしまった。和漢の稗史・・・ 内田魯庵 「露伴の出世咄」
・・・お手紙を見て驚喜仕候、両君の室は隣室の客を驚かす恐れあり、小生の室は御覧の如く独立の離島に候間、徹宵快談するもさまたげず、是非此方へ御出向き下され度く待ち上候 すると二人がやって来た。「君は何処を遍歴って此処へ来た?」と・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
・・・う、まして此のたびは他の雑誌社に奪われる危険もあり、如才なく立ちまわれよ、と編輯長に言われて、ふだんから生真面目の人、しかもそのころは未だ二十代、山の奥、竹の柱の草庵に文豪とたった二人、囲炉裏を挟んで徹宵お話うけたまわれるのだと、期待、緊張・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・大いに親しい人ならば、そうしておいでになる日が予めわかっているならば、ちゃんと用意をして、徹宵、くつろいで呑み合うのであるが、そんな親しい人は、私に、ほんの数えるほどしかない。そんな親しい人ならば、どんな貧しい肴でも恥ずかしくないし、家の者・・・ 太宰治 「酒ぎらい」
・・・「お互いに。」徹宵、議論の揚句の果は、ごろんと寝ころがって、そう言って二人うそぶく。それが結論である。それでいいのだとこのごろ思う。 私はたいへんな問題に足を踏みいれてしまったようである。はじめは、こんなことを言うつもりじゃなかった。・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・二十五日の夜、徹宵この敷石道の上をオートバイが疾走し篝火がたかれ、正面階段の柱の間には装弾した機関銃が赤きコサック兵に守られて砲口を拱門へ向けていた。軍事革命委員会の本部だったのである。 今スモーリヌイには、レーニングラード・ソヴェト中・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
出典:青空文庫