・・・「殊勝なお心掛けじゃ。それなればこそ、たとえ脚をば折られても、二度と父母の処へも戻ったのじゃ。なれども健かな二本の脚を、何面白いこともないに、捩って折って放すとは、何という浅間しい人間の心じゃ。」「放されましても二本の脚を折られてど・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・即ち本当の意味で時代に触れ、それを産むには、自分の中からその時代が発展して来なくては駄目で、本当にそうした心掛けで生活する人には、必ず其中に時代は産れて来るものです。それは丁度人間が原始時代から或る発達の経過を踏むと同じことです。万有は勿論・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
・・・と仰言るのは、暮し方の心掛けですか。 そうでしょうねえ。私達の生きている心持ちと云うものは、面白い不思議なものね。自分をこめての現実をどこまで理解して行くかと云うこと、得て来たものでまた現実を更えてゆくということは全く自・・・ 宮本百合子 「女性の生活態度」
・・・ 経済思想に富み、高い常識を持っている主婦は、決して馬鹿な買物はすまいと心掛けています。只廉いもの買いではなく、価と品質との正当なものを得ようとします。従って、店々の競争も、そこを狙って行われる。一般の買物日と定った日に纏めれば、多くの・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・女の体で出来ない仕事の種類もあって、そのための規定もつくられているのだが、女子の適正賃銀がきめられた結果、これ迄より一層収入が減って動揺している部分があるということも、ひとくちに、金が目あての心掛けではと云いすてることも出来まい。 女の・・・ 宮本百合子 「働く婦人」
・・・ こう云う、本当のあやまちを少なくするには、どう心掛けたらいいのでしょう。 近頃頻りにいわれる性教育も、補助的知識の一つとしては無いに勝るでしょう。けれども、人間として自分達が出来るだけ崇高に、豊富に、自由な正義、美を持って生きたい・・・ 宮本百合子 「惨めな無我夢中」
・・・兼て好い刀が一腰欲しいと心掛けていたので、それを買いたく思ったが、代金百五十両と云うのが、伊織の身に取っては容易ならぬ大金であった。 伊織は万一の時の用心に、いつも百両の金を胴巻に入れて体に附けていた。それを出すのは惜しくはない。しかし・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
・・・これも支度が極地味な好みで、その頃流行った紋織お召の単物も、帯も、帯止も、ひたすら目立たないようにと心掛けているらしく、薄い鼠が根調をなしていて、二十になるかならぬ女の装飾としては、殆ど異様に思われる程である。中肉中背で、可哀らしい円顔をし・・・ 森鴎外 「百物語」
・・・そうして常に自然から教わるという心掛けを失わない。しかし日本画家は自然に対してあたかも雇主のごとき態度を持している。ある気分、ある想念を現わすために、自然を使役し、時にはそれを非難することさえも辞せないのである。 もとより右の傾向には、・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・戦争については、吉日を選び、方角を考えて時日を移すというような、迷信からの脱却を重大な心掛けとして説いている。その他正直者の重用を説き、理非を絶対に曲げてはならないこと、断乎たる処分も結局は慈悲の殺生であることなどを力説しているのも、目につ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫