・・・思う念力、岩をもとおすためしも有之、あたかも、太原の一男子自ら顧るに庸且つ鄙たりと雖も、たゆまざる努力を用いて必ずやこの老いの痩腕に八郎にも劣らぬくろがねの筋をぶち込んでお目に掛けんと固く決意仕り、ひとり首肯してその夜の稽古は打止めに致し、・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・先生に於いても、必ずやこの際、極端に質素な茶会を催し、以て私たち後輩にきびしい教訓を垂れて下さるおつもりに違いない。私は懐石料理の作法に就いての勉強はいい加減にして、薄茶のいただき方だけを念いりに独習して置いた。そうして私のそのような予想は・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・自己嫌悪、含羞、閉口しているのであろう。必ずや神経のデリケエトな人にちがいない。自転車に乗って三鷹の駅前の酒屋へ用達しに来て、酒屋のおかみさんに叱られてまごついている事もある。やはり、自転車に乗って三鷹郵便局にやって来て、窓口を間違ったり等・・・ 太宰治 「男女川と羽左衛門」
・・・しかしながらその愉快は必ずや我らが汗もて血もて涙をもて贖わねばならぬ。収穫は短く、準備は長い。ゾラの小説にある、無政府主義者が鉱山のシャフトの排水樋を夜窃に鋸でゴシゴシ切っておく、水がドンドン坑内に溢れ入って、立坑といわず横坑といわず廃坑と・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ けれども、苟くも外国文を翻訳しようとするからには、必ずやその文調をも移さねばならぬと、これが自分が翻訳をするについて、先ず形の上の標準とした一つであった。 そこで、コンマやピリオドの切り方などを研究すると、早速目に着いたのは、句を・・・ 二葉亭四迷 「余が翻訳の標準」
・・・彼らは酒の池、肉の林と歌わずんば必ずや麦の飯、藜の羹と歌わん。饅頭、焼豆腐を取ってわざわざこれを三十一文字に綴る者、曙覧の安心ありて始めてこれあるべし。あら面白の饅頭、焼豆腐や。 安心の人に誇張あるべからず、平和の詩に虚飾あるべからず。・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・さへ鳴かぬ山陰に時鳥平安城をすぢかひに蚊の声す忍冬の花散るたびに広庭の牡丹や天の一方に庵の月あるじを問へば芋掘りに狐火や髑髏に雨のたまる夜に 常人をしてこの句法に倣わしめば必ずや失敗に終らん、手爾葉の結尾をもって・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・「必ずや未来に何物かを望んでいただろう。そして瞑目するまで美しい目の視線は遠い遠い所に注がれていて、或は自分の死を不幸だと感ずる余裕をも有せなかったのではあるまいか。その望みの対象をば、或は何物ともしかと弁識していなかったのではあるまいか」・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・ 本当に、日本が民主の国柄となり、男も女も、笑って働いて、生きて行ける国になるために、今日共産党が、真の民主主義を求めて、主権が君主にある制度に反対していることは近い将来において、必ずや正当であったことを、歴史の事実によって証明されるで・・・ 宮本百合子 「幸福のために」
・・・をよんだ読者の胸には必ずや或る感想が湧いたことであろうと思う。「帝国芸術院論」に於て、長谷川氏は、芸術そのものの理解者としては芸術至上主義的な立場を表明していられる一方、社会的関心の一つとしての芸術的関心は公のもので国家的のものであると・・・ 宮本百合子 「矛盾の一形態としての諸文化組織」
出典:青空文庫