・・・日本資本主義高揚期であった明治末及び大正時代に活動しはじめた永井荷風、志賀直哉、芥川龍之介、菊池寛、谷崎潤一郎その他の作家たちは、丁度それぞれの段階での活動期を終ったときだった。これらの作家たちは無産階級運動とその芸術運動の擡頭しはじめた日・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・リアリズムの手法としては、志賀直哉のリアリズムが、洋画史におけるセザンヌの位置に似た存在を示してきた。 一九一八年第一次世界大戦終了の後、日本にも国際的な社会変化の波濤がうちよせ、人間性の展開および文学の発展の基盤としての社会性の問題が・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・ 二 数年前のことであった。志賀直哉氏が何かの場合に、自分は思想としてのマルクス主義に反対はしないが、その中で働いている人間をいきなり尊敬することは出来ない、という意味を語ったのを間接にきいた。 いかに・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・その点やっぱり志賀直哉のすじを引いていると云えるんじゃないかな」「志賀さんが男で、あれだけの天分と、経済力とをもって自分の境地を守り得るのと、一人の女の作家が、いまの世の中でめぐり合うものとは、全くちがうんじゃないでしょうか。防ぎきれる・・・ 宮本百合子 「折たく柴」
先だっての新聞は元新興キネマの女優であった志賀暁子が嬰児遺棄致死の事件で、公判に附せられ、検事は実刑二年を求刑した記事で賑わいました。出廷する暁子として、写真も大きく載せられ、裁判所は此一人の女優の生涯に起った悲しい出来事・・・ 宮本百合子 「「女の一生」と志賀暁子の場合」
・・・ 同じ三・一五の被告であった徳田球一、志賀義雄などの人々が、永い獄中生活にもかかわらず、一九四五年十月に解放されてからすぐ共産党の合法的活動に着手したことを思いあわせると、私たちは同じ共産党員といわれる人々の中に、非常な大きい差別がある・・・ 宮本百合子 「共産党とモラル」
・・・ それより前には、志賀暁子の嬰児遺棄致死罪についての公判記事が写真入りでのっており、又、解雇されたことを悲しんで省電に飛び込み自殺をしかけて片脚を失った少女の写真があった。新潟から身売娘が三十人一団となって上京した写真も目にのこっている・・・ 宮本百合子 「暮の街」
・・・などが世間の注目をひき、文章の古典復興物語調流行がきざしかけた頃、なにかの雑誌で、谷崎と志賀との文章を対比解剖し、二人の文章にあらわれている名詞、動詞の多少、形容詞、副詞の性質を分析し、志賀直哉を客観的描写の作家とし、谷崎潤一郎の最近書く物・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・ 志賀直哉が自著入りでやはり千円の本を出す、ときく心持は「まんじ」の場合よりも、もっと文学の圏内におこったことの感じであった。「暗夜行路」をくりかえしよんだ私たちの年代のものは、千円の本をつくる作家志賀直哉に対し、もし事実であるならば暗・・・ 宮本百合子 「豪華版」
・・・スキーで有名な志賀高原へ一昨日行きました。新しいドライヴ・ウエイを二十分ばかりのぼると杉、松、栗、柏などの見事な喬木の森がつきて白樺、つつじ、笹などの高原植物になります。石ころ道の旧道を、冬ごもりの仕度に竹、木材、柴など背負い、馬につんだ農・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫