・・・四 汽車中では重吉の地方生活をいろいろに想像する暇もあったが、目的地へ下りるやいなや、すぐ当用のために忙殺されて、「あのこと」などはほとんど考えもしなかった。ようよう四、五日かかって、一段落がついた時、自分はまた汽車に揺られ・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・ 民主主義文学運動という声とともに、一部から反小林多喜二論は、反特攻隊精神と同性質のものであるかのように繁昌し、それとのたたかいに忙殺された。民主主義文学運動の中に、労働者階級の使命を明らかにして、おのずからプロレタリア文学の伝統のどの・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・これまで多くの母は、家のやりくり、良人の世話、非計画的に生れる子供らの世話で忙殺され、子供らの文化の与え手となるまでのゆとりはなかった。母たち自身が、ああ、どの位その望みをみたされぬ自分のお伽噺をもって、いたずらに老いて行ったことであろう。・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・日本のように、結婚すると間もなく、両親の精神さえ鎮まらないうちに、只管子供の為に忙殺されてのみ日を送るような生活ばかりを、彼等はよしとしていません。子の為と云うより先に、まず親達が、二人の人間として充実した力と活動とを自分等の為に、要求する・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
出典:青空文庫