・・・通知があったので、さっそく出かけてみると、その座に高等師範の校長嘉納治五郎さんと、それに私を周旋してくれた例の先輩がいて、相談はきまった、こっちに遠慮は要らないから高等師範の方へ行ったら好かろうという忠告です。私は行がかり上否だとは云えませ・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・ 我が輩、この忠告の言を案ずるに、ある人の所見において、つまり政治経済学の有用なるは明らかなれども、これを学びて世を害すると否とは、その人に存す。弱冠の書生は、多くは無勘弁にして、その人に非ずということならん。この言、まことに是なり。・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・この時にあたりて、世間あるいは君の軽躁を悦ばずして、君に忠告すること、今日、君が我々に忠告するが如き者はなかりしや。当時、君はその忠告を甘受したるか。我々ひそかに案ずるに、君は決してかかる忠告を聴く者に非ず。その忠告者をば内心に軽侮し、因循・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・西洋書の内に、子生れてすでに成人に及ぶの後は、父母たる者は子に忠告すべくして命令すべからずとあり。万古不易の金言、思わざるべからず。 さてまた、子を教うるの道は、学問手習はもちろんなれども、習うより慣るるの教、大なるものなれば、父母の行・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・者の、ビジテリアンは人間の感情を以て強て動物を律しようとするというのに対して、私は実に反対者たちは動物が人間と少しばかり形が違っているのに眼を欺かれてその本心から起って来る哀憐の感情をなくしているとご忠告申し上げたいのであります。誰だって自・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 同じ婦人民主新聞に、G・H・Qの労働課長シュークリフ女史が、今年義務教育を終った十三万人の女の子の就職について語っている親切な忠告を見くらべると、深い感情にうたれます。シュークリフ女史はいっています。日本の紡績工業者は、新卒業子女の大・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・日本が民主的な社会となるためには、日本の男も女も、はっきりめいめいの意志と判断とにたってイエスかノーかを表現し、拒絶したいことは、あいまいに笑ってすぎないではっきり拒絶するようにならなければいけないと忠告された。 きょうの生活を考えると・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・と兜の緒を緊めてくれる母親が涙を噛み交ぜて忠告する。ても耳の底に残るように懐かしい声、目の奥に止まるほどに眤しい顔をば「さようならば」の一言で聞き捨て、見捨て、さて陣鉦や太鼓に急き立てられて修羅の街へ出かければ、山奥の青苔が褥となッたり、河・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・ことを忠告させようとする。彼はさまざまの近代芸術に心を魅せられたが、しかし結局彼の師は、彼がその早い青年時代に感じたごとく、ゲエテでなくてはならない。彼の内にさらにこの師に培わるべき、重大な芽がひそんでいることを、自分は明らかに感じている。・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
・・・そうして自分たちよりもはるかに深く自然をつかんでいるものに対して、自然に即けと忠告するのである。 すべてこれらのことは彼らの内生の浅薄貧弱から生まれている。彼らの「自己」が浅薄である以上それを「客観化」した彼らの経験が浅薄であるのは当然・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫