・・・肥った赤ら顔の快活そうな老西洋人が一人おり立って、曲がった泥よけをどうにか引き曲げて直した後に、片手を高くさしあげてわれわれをさしまねきながら大声で「ドモスミマシェン」と言って嫣然一笑した。そうして再びエンジンの爆音を立てて威勢よく軽井沢の・・・ 寺田寅彦 「あひると猿」
・・・ もっと快活な女であったように、私は想像していた。もちろん憂鬱ではなかったけれど、若い女のもっている自由な感情は、いくらか虐げられているらしく見えた。姙娠という生理的の原因もあったかもしれなかった。 桂三郎は静かな落ち着いた青年であ・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・ 彼等は、朝の潮に洗われた空気に相応しく快活に笑った。 それは、負傷さえしていなければ、火夫の云う通りであった。だが、今は私は、一銭の傷害手当もなく、おまけに懲戒下船の手続をとられたのだ。 もう、セコンドメイトは、海事局に行って・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
・・・かつ我が儒者はたいがい皆、武人の家に生れたる者にして、文采風流の中におのずから快活の精神を存し、よく子弟を教育してその気風を養い、全国士族以上の者は皆これに靡ざるはなし。改進の用意十分に熟したるものというべし。」云々。 右の如く、我・・・ 福沢諭吉 「物理学の要用」
・・・私とは正反対に、非常な快活な奴で、鼻唄で世の中を渡ってるような女だった。無論浅薄じゃあるけれども、其処にまた活々とした処がある。私の様に死んじゃ居ない。で、其女の大口開いてアハハハハと笑うような態度が、実に不思議な一種の引力を起させる。あな・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・わたくしは持前の快活な性質を包み隠しています。夫がその性質を挑発的だと申すからでございます。わたくしはただ平和が得たいばかりに、自己の個人性を全滅させました。それが大失錯で、夫の要求は次第に大きくなるばかりでございます。今日のところでは、わ・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・私たちは、近代の科学で設計され、動的で、快活で、真情に富んだ雄々しい明日の船出を準備しなければならないのだと思う。〔一九四〇年二月〕 宮本百合子 「新しい船出」
・・・ 二十を僅に越した位の男で、快活な、人に遠慮をせぬ性らしく見えた。この人が私にそう云う印象を与えたのは、多く外国人に交って、識らず知らずの間に、遠慮深い東洋風を棄てたのだと云うことが、後に私にわかった。 初対面の挨拶が済んで私は来意・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・ 彼は初めて秋三に復讐し終えたような快活な気持になった。十一 一週間の後、小さな藁小屋が掘割の傍に建てられた。そこは秋三の家に属している空地であった。 その日最早や安次は自由に歩くことも出来なくなっていた。彼は勘次の・・・ 横光利一 「南北」
・・・アフリカの民族は快活で、多弁で、楽天的であるが、しかしその精神的な表現の様式は、今日も昔も同じくまじめで厳粛である。この様式もいつの時かに始まり、そうして後に固定したものに相違ない。が、その謎めいて古い起源が我々には魔力的に感ぜられるのであ・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫