・・・ この一事においてさえ、若い女性の人生への念願とはすでに喰いちがうのである。今日いくらかでも女の一生の意味を考える若い婦人たちは、いわばさっぱりと友達として女性につき合うことも知っている男性、女に向えばオイ! という声が喉に湧いて来るよ・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・ よりよく生きたいという人間本来の念願を私たちのものとして生活の中に実現してゆくためには、目前の不合理そして又自分たちの非条理で失望し引き下ってしまわないだけの、大きくつよい息が必要である。〔一九四一年十一月〕・・・ 宮本百合子 「家庭創造の情熱」
・・・心のいきさつを描きたいことは全作家のひとしき願望ではあるが、著書もそれが社会性乏しくきわめて個人的なものであることを認めている反省的心理叙述を、横光利一のみでなく、私も一人の作家として同じく念願していると推定されるとすれば、それは現実の事情・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・清潔であって生々とした美感に溢れた作を生むということこそ、松山文雄さん、前島ともさんお二人の芸術家としての念願でありましょう。そして私達友人のひとしき願いもそこにあります。未来のために与えられる一つの援助は、過去に向って与えられる賞讚よりも・・・ 宮本百合子 「健康な美術のために」
・・・そのような非道な力の下でしかも猶よく生きようと念願しつづけて来た自分たち若い女性の心情を、いつくしんでやまない情熱をも持っているであろう。生きてゆく上に経済事情がどんなに決定的な条件であるかという事実も、こうして女子の失業が強制されて来れば・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・私たちが本を作るということは、出来るだけ廉く、ためになる本を、美しいものにして、作りたいという念願をもって作るわけでありますが、今日、その紙はどういうふうになっているかというと、みんな配給になっております。けれども、ずいぶん紙を買溜めしてお・・・ 宮本百合子 「幸福について」
・・・また、私はいつも私であっていいのだ、という確信をもって生きたい、そのようにして生きる条件を見出したいと思う願いも、今日私たちのまわりに高鳴っているおびただしい若い女性の心奥に絶えず動いている念願ではないだろうか。 私は私であっていいのだ・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・に一縷通じるものとの念願に立って書かれたのだそうである。「こゝろ」の先生という人格や「それから」の代助と、公荘とを比べる人の心に、果してどのような感想が湧くであろう。漱石は彼の明治四十年初期の環境において、過去の形式的、馬琴的道徳と行為の動・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 今日文学が作者の念願しているだけ十分にリアリスティックであり得ないという実際の事情は普遍的だから、誰しも身にひき添えて肯けるのであるけれども、それを理由にいきなりロマンティックな文学時代の招来へ飛躍されるのは、文学の問題としてみると、・・・ 宮本百合子 「作家と時代意識」
・・・文芸思潮史としてこの一巻をまとめることを念願したとあとがきに書かれているが、批評及び文芸思潮史の方法として、ここに示されている数歩は、日々があわただしくて人々の視線も上ずっているような今日の世相のなかで、決して瞠目的な形ではあり得まいが、し・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
出典:青空文庫