・・・ 営門で捧げ銃をした歩哨は何か怒声をあびせかけられた。 衛兵司令は、大隊長が鞭で殴りに来やしないか、そのひどい見幕を見て、こんなことを心配した位いだった。「副官!」 彼は、部屋に這入るといきなり怒鳴った。「副官!」 ・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・ 私は自分でも意外なほどの、おそろしく大きな怒声を発した。「来たのですか。きょう、私これから用事があって出かけなければなりません。お気の毒ですが、またの日においで下さい」 お慶は、品のいい中年の奥さんになっていた。八つの子は、女・・・ 太宰治 「黄金風景」
・・・ こらえ切れず、僕は怒声を発した。打ち据えてやりたいくらいの憎悪を感じた。「そんなものを、読むもんじゃない。わかりやしないよ、お前には。何だってまた、そんなものを買って来るんだい。無駄だよ。」「あら、だって、あなたのお名前が。」・・・ 太宰治 「眉山」
・・・ そういう怒声もきこえる。歩道の人々はおどろきと恐怖の表情で、そのさわぎを眺めているのであった。 そのころのメーデーといえば、全く勤労大衆の行進か、警官の行進か、という風であった。険相な眼と口を帽子の顎紐でしめ上げた警官たちが、行列の両・・・ 宮本百合子 「メーデーに歌う」
出典:青空文庫