・・・ 吉田はこれまで一度もそんな経験をしたことがなかったので、そんなときは第一にその不安の原因に思い悩むのだった。いったいひどく心臓でも弱って来たんだろうか、それともこんな病気にはあり勝ちな、不安ほどにはないなにかの現象なんだろうか、それと・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・三 ここまで回顧して来て、いつも思い悩むのはその奥である。何が自分をして諦めさせるのだろう。私に取ってはそれが神の力でも信仰の力でもなくして、実に自分の知識の力である。もしみずから僣して聡明ということを許されるなら、聡明なか・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・ 私は、服装のことで思い悩む。久留米絣にセルの袴が、私の理想である。かたぎの書生の服装が、私の家の人たちを、最も安心させるだろう。そうでなければ、ごくじみな背広姿がよい。色つきのワイシャツや赤いネクタイなど、この場合、極力避けなければな・・・ 太宰治 「花燭」
出典:青空文庫