・・・私たちは、決して怠けてなど居りません。無頼の生活もして居りません。ひそかに読書もしている筈であります。けれども、努力と共に、いよいよ自信がなくなります。 私たちは、その原因をあれこれと指摘し、罪を社会に転嫁するような事も致しません。私た・・・ 太宰治 「自信の無さ」
・・・私は暑熱をいい申しわけにして、仕事を怠けていて、退屈していた時であったから、早速行ってみることにした。朝の八時頃、家内に案内させて、出掛けた。たいしたことも無かった。練兵場の草原を踏みわけて歩いてみても、ひとりで笑い出したくなるようなことは・・・ 太宰治 「美少女」
・・・実際はやはり普通の講義や演習から非常なお蔭を蒙っていることは勿論であって、もしか当時そういう正規の教程を怠けてしまっていたらおそらく卒業後の学究生活の第一歩を踏出す力さえなかったに相違ない。講義も演習もいわば全く米の飯のようなもので、これな・・・ 寺田寅彦 「科学に志す人へ」
・・・同じような例を挙げると、年中怠けてばかりいる学生が、一年に一日「勉強デー」を設けるのや、あるいは平生悪い事ばかりしている男が、稀に「善行デー」を設けるのと同じような事で、それも一応は誠にいい事だと思われる。 しかし一日の善行で百日の悪行・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 昔ある国での話であるが、天文の学生が怠けて星の観測簿を偽造して先生に差出したら忽ち見破られてひどくお眼玉を頂戴した。実際一晩の観測簿を尤もらしく偽造するための労力は十晩百晩の観測の労力よりも大きいものだろうと想像されるのである。・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・「しばらく怠けたので新星の発見をし損なったね」と云ったら、子供はどう思ったか顔を真赤にして、そしてさも面白そうに笑っていた。 私は冗談のつもりで云ったのだが子供には私の意味がよく分るまいと思った。それで誤解をしないために次のような説・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・だから本当を云うと、こっちから名刺でも持って訪問するのが世間並の礼であったんだけれども、そこをつい怠けて、どこが長谷川君の家だか聞き合わせもせずに横着をきめてしまった。すると間もなく大阪から鳥居君が来たので、主筆の池辺君が我々十余人を有楽町・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
・・・ 次の朝はまた怠けた。昔の女の顔もつい思い出さなかった。顔を洗って、食事を済まして、始めて、気がついたように縁側へ出て見ると、いつの間にか籠が箱の上に乗っている。文鳥はもう留り木の上を面白そうにあちら、こちらと飛び移っている。そうして時・・・ 夏目漱石 「文鳥」
・・・始終怠けてのらくらしていました。その記憶をもって、真面目な今の生徒を見ると、どうしても大森君のように、彼らを攻撃する勇気が出て来ないのです。そう云った意味からして、つい大森さんに対してすまない乱暴を申したのであります。今日は大森君に詫まるた・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・ プロレタリア文学の発展のために、これまでも彼等は決して怠けていたわけではなかった。しかし、形式の探求、古典の研究、パプツチキとの理論闘争などの活溌さに比べて、直接大衆へよびかける作品そのものの生産は、目覚ましく行っているとはいえなかっ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫