・・・ 人生の進歩というものは徐々として、時に破壊と建設の姿をとる場合もあるけれど又急速に飛躍して、其れを達しようとする場合もある。今私達の気持はどの点においても慌だしさを感じている事は事実だ。最も敏感である詩人に、この気持が分らない筈がない・・・ 小川未明 「詩の精神は移動す」
・・・ その通信欄で言葉を交し、謂わば、まあ共鳴し合ったというのでしょうか、俗人の私にはわかりませんけれど、そんなことから、次第に直接に文通するようになり、女学校を卒業してからは、急速に芹川さんの気持もすすんで、何だか、ふたりで、きめてしまったの・・・ 太宰治 「誰も知らぬ」
・・・飛んで来て止まった時には最初大きく振れるが急速な減衰振動をして止めてしまう。どうもこの鳥の心の動きが尾の振動に現われるように見えるのである。「この辺には雀がいない」と子供がいう。なるほどまだ一度も雀の顔を見ない。もしかすると鶺鴒の群がこ・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
・・・その先端の綿の繊維を少しばかり引き出してそれを糸車の紡錘の針の先端に巻きつけておいて、右手で車の取っ手を適当な速度で回すと、つむの針が急速度で回転して綿の繊維の束に撚りをかける。撚りをかけながら左の手を引き退けて行くと、見る見る指頭につまん・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・そういえば丸鋸で材木をひく時にもこれに似た不規則な轢音の急速な断続があるのである。 この蝗の羽音は何を語るか。蝗は何を目的として何物に導かれてどこからどこへ移動するか。世界は自分らのためにのみできているとばかり思っているわれわれ愚かな人・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・そうして人類文化の進歩の急速な足音を聞いているような気もする。「ザンバ」のごとき自然描写を主題にしたものでも、おそらく映画製作者の意識には上らなかったような些事で、かえって最も強くわれわれの心を引くものが少なくない。たとえば獅子やジラフ・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・ これは書物で読んだことだが、樫鳥や山鳩や山鴫のような鳥類が目にも止まらぬような急速度で錯雑した樹枝の間を縫うて飛んで行くのに、決して一枚の木の葉にも翼を触れるような事はない、これは鳥の目の調節の速さと、その視覚に応じて反射的に行なわれ・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・ これは書物で読んだことだが、樫鳥や山鳩や山鴫のような鳥類が目にも止まらぬような急速度で錯雑した樹枝の間を縫うて飛んで行くのに、決して一枚の木の葉にも翼を触れるような事はない。これは鳥の眼の調節の速さと、その視覚に応じて反射的に行われる・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・そしてその進歩が人間に比べて驚くべく急速である事も拒み難い。このように知能の漸近線の近い動物のほうが、それの遠い人間に比べてそれに近づく速度の早いという事実はかなり注意すべき事だと思ったりした。物質に関する科学の領域にはこれに似た例はまれで・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・頭の上で近付けた両手を急速に左右に離して空中に円を描くような運動、何かものを跨ぎ越えるような運動、何ものかに狙い寄るような運動、そういうような不思議な運動が幾遍となく繰り返された。 前の二種の舞がいかにもゆるやかな、のんびりとしたもので・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
出典:青空文庫