異国語においては、名詞にそれぞれ男女の性別あり。然して、貨幣を女性名詞とす。 私は、七七八五一号の百円紙幣です。あなたの財布の中の百円紙幣をちょっと調べてみて下さいまし。あるいは私はその中に、はいっているかも知れませ・・・ 太宰治 「貨幣」
・・・今度改正された憲法は、その中に、すべての人民は法律の前に平等であるとされていて、性別身分などの特権によって特別な利益を保護されることはないように規定されている。しかしその中に天皇という特別な一項がある。華族は世襲でなくなったが、天皇の地位は・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・第十二条に、「凡そ人は法の下に平等にして、人種、信条、性別、社会的地位、又は門地に依り政治的、経済的、社会的関係に於て差別をうくることなきこと」と明記されている。一方、人であって他の動物ではない天皇というものが、全く特殊な立場に固定され、そ・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・然しながら、妻が、泥酔した夫や花柳病にかかっている夫との性的交渉を拒絶すべき母として当然の権利を、擁護してはいないのである。性別は染色体の問題であることを私達は知っている。染色体はそれを包蔵する細胞の健康状態と勿論結びついた関係にある。互に・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・少女は彼女のまだ性別定かならぬ喉笛のむず痒さで演説の邪魔をしてはならないと知ってる。細い手の指をかためて口を押えて用心深くやっている。 この明かに未組織な少女の伴れは祖母さんだ。生れてから婦人帽というものは頭にのっけずにきた、そして、自・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・その思いを犇と感じその思いのうちに日夜行動しているのが外ならぬ自分であるが、一人の人間としての自分というものは、時代や境遇、性別などと極めて具体的な内容に充たされており、私という平凡そうな三つの音の中には縦横十文字に歴史の波がうちよせ、さし・・・ 宮本百合子 「人生の共感」
・・・ 連れて来た赤坊たちは、まず第一の室ですっかり着ているものをぬがされ、互にまだ性別のない体をあどけなく眺めあいながら、体重を計られ、検温され、やがてすっかり托児所そなえつけの衣服をきせられる。 赤坊たちは、未来の闘士も婦人技術家もズ・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
・・・ けれどもソヴェトでは男も女もそういう意味のブルジョア的性別は、減っている。 何故かというと、労働において女は男の協力者であり、又家庭生活の中でも第一、小学校から男と女のする仕事が別れるということはない。……学校でくれる弁当を食べる・・・ 宮本百合子 「ソヴェトに於ける「恋愛の自由」に就て」
・・・だけれどもソヴェトでは男も女もそういう意味のブルジョア的性別は、減っている。何故かというと、労働において女は男の協力者であり、また家庭生活の中でも第一小学校から男と女のする仕事が別れるということがない。お弁当を食べる時……学校でくれるお弁当・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・もし一つの社会が、その民主的な発達の過程で、本当に男女の同権を具体化するならば、それは当然人間の性別に対する、今日では想像も出来ない程行届いた理解をともなわずにはいない。男女同権ということは、今日のように男も女も基本的な生存の安定を脅やかさ・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
出典:青空文庫