・・・然るに論者は性急にして、鏡に対して反射の醜なるを咎め、瓜に向いて茄子たらざるを怒り、その議論の極意を尋ぬれば、実物にかかわらずして反射の影を美ならしめ、瓜の蔓にも茄子を生ぜしむるの策ありと、公にこれを口に唱えざれば暗に自からこれを心の底に許・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・歴史的にも若々しかった彼らのある者は、性急にそのギャップを自分たちの身をもって埋めようとした。性的な欲望を満たすことは喉の干いた時一杯の水をのむにひとしいという言葉の最も素朴な理解が、恋愛、結婚に対する過去の神秘主義的封建的宿命論の反撥とし・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・ 中国での人民革命の成功は、一部の人々を性急にしています。日本の人民的文化の下地の具体的条件をとびこして、せっかちに、まるで新しい「新しい文化」の発見にあせっているところもある。だが、現実に日本にあらわれている新しい文化の動きは、いろい・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・で、ブルガーコフは、一部の共産党員が考えている性急で単純な世界革命の希望を批判し、諷刺している。 確に、この大仕事はそう雑作なく行きはしないのだ。 だが、果して、世界革命はブルガーコフのように諷刺しやゆしてしまうだけのものだろうか?・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・ 児童たちの窓ふき作業ぶりを観察して、たちどころに小学教育の基礎と方法とは労作に結びついた教育でなければならぬという社会主義教育の階級的課題にまで頭の中で推論に拍車をかけた佐田は性急に、孤立的にそれをどういう形で行うかというと「おおい、・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・そして、どこか性急な調子をもったその現象は、傍にはっきり、最後の武器は人口であるという見出しを示すようにもなって来ている。 女性のうちの母性は、天然のめざめよりあるいはなお早くこの声々に覚醒させられているようなけはいがある。若い女性たち・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・だから婦人民主クラブのようなところでは、だんだん長い間にゆっくりとみなが成長して参りますために、しっかりした足どりで自分達の生活を建設できるために、みながより集まってやってゆこうとするところですから、性急に何をどうしようという必要もないでし・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・ 同時に、一部には、何かの錯覚めいた性急さが湧いた。国内の反民主主義的な圧力、抑圧に抵抗しずにいられない客観的な必然がより一般的に生じたとともに、日本の民主勢力の攻勢が何かのたかまりをもてば、どうやら中国の勝利につれて何かのゴールに、達・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・山並の彼方から、憤りのようにムラムラと湧いた雲が、性急な馳足で鈍重な湖面を圧包むと、もう私共は真個に暗紅の火花を散らす稲妻を眺めながら、逆落しの大雨を痛い程体中に浴びなければなりません。其の驟雨は、いつも彼方にのっしりと居坐ったプロスペクト・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・その社会的共感の基礎として集団的人間が予想され、今日のわれわれの合理性の声として、人間性を内容づける階級性も、当然思惟の領域に入っているのであるが、それを性急に従来の定形に準じて方向づけてしまっても、観念上の満足にとどまって、現代ヒューマニ・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
出典:青空文庫