・・・養家に行きて気随気儘に身を持崩し妻に疏まれ、又は由なき事に舅を恨み譏りて家内に風波を起し、終に離縁されても其身の恥辱とするに足らざるか。ソンナ不理窟はなかる可し。女子の身に恥ず可きことは男子に於ても亦恥ず可き所のものなり。故に父母の子を教訓・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ ゆえに、貿易に不正あれば、商人の恥辱なり、これによりて利を失えば、その愚なり。学芸の上達せざるは、学者の不外聞なり、工業の拙なるは、職人の不調法なり。智力発達せずして品行の賤しきは、士君子の罪というべし。昔日鎖国の世なれば、これらの諸・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・夫婦正しく一身同体、妻の病気には夫の身を苦しめ、夫の恥辱には妻の心を痛ましめ、其感ずる所に些少の相違あることなし。世の男女或は此賭易き道理を知らずして、結婚は唯快楽の一方のみと思い却て苦労の之に伴うを忘れて、是に於てか男子が老妻を捨てゝ妾を・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・こう云ういやなものが町の中を勝手に歩くということはおれの恥辱だ。いいからひっくくってしまえ。」とペンネンネンネンネン・ネネムは部下の検事に命令しました。一人の検事がすぐ進んで行ってタン屋の店から出て来るばかりのそのいやなものをくるくる十重ば・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・愛する自分の国の科学力の発達が、人畜を殲滅する能力などという点でほこられるとしたら、それは、よろこびよりも苦痛と恥辱を感じさせるのが自然です。 では、どうして、日本の新聞は、そういう誇るべからざる誇りを、毒々しく報道したりするのでしょう・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・無論は、女性が昔の偏狭な、恥辱的な性的差別に支配、圧迫された生活から脱して、一箇の尊敬すべき独立的人格者として生活すべき事を他人にも我にも承認させた。 人として更たまった、身も震うような新鮮な意気と熱情とを以て人として生き抜こう為に、箇・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・青年からその申し出をきいて、老牧師は、自分と娘とにとってまことに思いもかけない恥辱からの救い手と、おどろいた。「あなたは、何という聖者だ!」青年は、ひそかな苦々しさをかくして答える。「僕はただ人間であるにすぎません」 ゴールスワアジーら・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・ノーベル賞を与えられた彼等は科学者として最高の名誉の席につかせられ、学界からおくられる称号、学位の数々は、まるでそういう名誉でキュリー夫妻を飾ることを怠れば、その国々の恥辱となるとでも云いそうな勢でした。もしキュリー夫妻の艱難と堅忍と努力と・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・ 主婦は、斯うしたかなりの家から駒込送りの病人を出した事を非常に恥辱の様に思い、子供達は気味も悪がり、女中共は涙をこぼし、主は、「道徳だの頭の程度の違うものと生活するのはよくない事だ。と云って居た。 斯うした種々の気・・・ 宮本百合子 「黒馬車」
・・・意外であり乍ら、而も、途方もない事だと、其人の為、又自分達の為に恥辱を感じることもなく、二人の第一連想が期せずして其点に一致したのは何故だろう。「――生憎、私が此辺を昨夜は片づけたんでね、一素何処にあったかまるっきり知らなければ却ってよ・・・ 宮本百合子 「斯ういう気持」
出典:青空文庫