・・・斯ういう職業を賤視する人たちの祖先たる武士というものも亦一つの職業であって封建の家禄世襲制度の恩沢を蒙むって此の武士という職業が維持せられたればこそ日本の大道楽なるかの如く一部の人たちに尊奉せらるゝ武士道が大成したので、若し武士が家禄を得る・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・自分なぞはいわゆる茶の湯者流の儀礼などは塵ばかりも知らぬ者であるけれども、利休がわが邦の趣味の世界に与えた恩沢は今に至てなお存して、自分らにも加被していることを感じているものである。かほどの利休を秀吉が用いたのは実にさすがに秀吉である。利休・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・と彼を抑えこれを揚ぐる画策縦横大英雄も善知識も煎じ詰めれば女あっての後なりこれを聞いてアラ姉さんとお定まりのように打ち消す小春よりも俊雄はぽッと顔赧らめ男らしくなき薄紅葉とかようの場合に小説家が紅葉の恩沢に浴するそれ幾ばく、着たる糸織りの襟・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・ゆえに政府の下にいて政事の恩沢を蒙る者は、国君・官吏の給料多しとてこれをうらやむべからず。政府の法正しければその給金は安きものなり。ただにこれをうらやまざるのみならず、また、したがってその人を尊敬せざるべからず。ただし国君官吏たる者も、自か・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・つづいて、第二には、こういう風に、実際たたかいがはじまったからには、あんまり平和について理屈っぽいことなど語らないで、目立たず、少しでも特需景気の恩沢をうけるのが賢いことだ。そういう考えかたである。日本はどうなるのだろう。もう戦争だけは御免・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・軍需インフレーションは一部をうるおしているであろうが、その恩沢にあずからぬ者の方が多いことは明らかである。この数年来、若い男女の経済生活は、中流層の崩壊につれて困難の度を加えてきている。結婚難も増し、従って、若い人々の間の恋愛の感情も複雑な・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
出典:青空文庫