・・・私などまだ六年の文壇経歴しかないが、その六年間、作品を発表するたびに悪評の的となり、現在もその状況は悪化する一方である。私の親戚のあわて者は、私の作品がどの新聞、雑誌を見ても、げす、悪達者、下品、職人根性、町人魂、俗悪、エロ、発疹チブス、害・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・田舎のほうに転出しようかとも考えているのですが、永い汽車旅行のあいだに悪化してしまうといけませんし、とにかくこの子の眼がよくならなければ私たちはどこへも行けない状態で、ほんとに困ってしまって。」などと私は汗を拭きながら、しきりに病状を訴え、・・・ 太宰治 「薄明」
・・・元旦だからというのでつい医者を呼ばなかったばかりに病気が悪化するといったような場合もありうるであろう。 高等学校時代のある年の元旦に二三の同窓といっしょに諸先生の家へ年始回りをしていたとき、ある先生の門前まで来ると連れの一人が立ち止まっ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・却って、最近悪化して来ている。いくら、待遇改善しても、月給は物価に追いつく時は決してない。これがインフレーションの特徴である。めいめいの財布は空となって、遂にほうり出されている形である。闇の循環で、細々生きているような生命の扱いかたをどんな・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・経済事情が悪化している今日、学生のアルバイト、主婦の内職、また内職的な意味でのかけもち職業の問題が増えてきて、女性の重荷はましています。 積極的な意志で結婚した人々もこういう問題については、苦しい経験をしているわけです。根本は家事が個別・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・その間に四一年十二月九日から翌年七月末、巣鴨拘置所で病気が悪化し意識不明になるまでとめておかれた。少し眼も見えるようになった一九四三年の春から秋にかけて、調べのつづきということで、警察や検事局へよばれた。警察では、「三月の第四日曜」という小・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)」
・・・そこからぬけ出しようのないばかりか、悪化してゆく貧困にしばりつけられた人々の生きている地区だった。尨大な数の不幸な人々と、顔色のわるい、骨格のよわいその子供たちとが、自分たちの運命をきりひらくために勇奮心をふるい起そうともしないで、波止場の・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・ 夜中に見た夢が悪かったのか、男が余りがさつであった為か、私の気分は愈々悪化した。 宮本百合子 「或日」
・・・、女の台所の中のこととして来た、公私さかさまな習慣が、今日のところまで食糧事情を悪化させて来た一つの動機でさえあるようです。 目下の日本で、最も切迫した公の問題は、食糧危機をどう突破するかということですが、代議士たちの大多数は、これ・・・ 宮本百合子 「公のことと私のこと」
・・・事態がますます悪化しそうです。私たちは今か今かと動員令を待ち受けています。」 しかし戦争にならなければそちらへ行けるでしょうと約束した月曜には、独軍が宣戦の布告もせずに武力に訴えながらベルギーを通過してフランスに侵入した。 パリの母・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
出典:青空文庫