・・・小学校から中学校へかけ、学生時代の僕の過去は、今から考えてみて、僕の生涯の中での最も呪わしく陰鬱な時代であり、まさしく悪夢の追憶だった。 こうした環境の事情からして、僕は益々人嫌いになり、非社交的な人物になってしまった。学校に居る時は、・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・資本主義生産に奴隷として使われた時代の悪夢、工場とは出来るだけわが身を劬って働いて金をとるだけの場所と思っている者も幾分ある。積極的に五ヵ年計画、生産の社会主義的拡大に対して不賛成な反革命的分子もある。彼等は職場で、機械の歯車のかげで熱心な・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・て私の眼はまくまくで、一入ものがみえないけれど、起きたらお手紙が来ていたし、寿江子からもきていて、あの人も初雪と一緒にやっと峠を越して、同時に宿屋にオルガンのあるのをみつけてすっかり元気をとり戻し、「悪夢からさめたよう」だそうです。一日雪明・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・あやまった指導力に自分たちの運命をまかせたこれらの民族は、ドイツ人民がその悲惨において示しているように、きょうの世界文学の上に、自分たちのおそろしい経験を、人類の最後の悪夢たるべき経験として物語る余力がないまでに挫折させられた。 ソヴェ・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・私たちは、今もなお悪夢のような印象で一つのポスターを思い出す。省線各駅、町会の告知板に、徳川時代の、十手をもった捕りかたが手に手にふりかざした御用提燈が赤い色で描かれたポスターがはられた。赤い御用提燈に毒々しくスパイ御用心と書かれていた。当・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・ヴィンダーブラ、この時、悪夢に襲われたように低い呻き声を発して目を半ば醒す。そして、暫く不安げに四辺を見廻し、やがて寝ころんでいるミーダの方にのろのろ這いよって行く。〔一九二四年一月〕・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・それから原子兵器は、現世紀の悪夢となった。国際政治に対して、あらゆる国の人民が重大な関心をむけ、原子兵器使用禁止のために集団的に発言しないではいられなくなった。なぜならナガサキの例をみてもヒロシマの例をみても、原爆で大量殺戮されたのは実に人・・・ 宮本百合子 「「人間関係方面の成果」」
・・・わたしたち世界の婦人こそ先頭にたって原子兵器の脅威という現代の悪夢を追いはらいましょう。〔一九五〇年八月〕 宮本百合子 「願いは一つにまとめて」
・・・した老人は、一目見たときからゴーリキイの心に本能的な憎みを射込んだと同時に、この祖父を家長といただいて生活する伯父二人とその妻子、祖母さんに母親、職人達という一大家族の日暮しは、幼いゴーリキイにとって悪夢のような印象を与えた。 深くかぶ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・一つ家の中には家内持ちの二人の伯父がいて、財産分配のことから祖父と悪夢のようにののしり合い、時には床をころげてなぐりあった。そうかと思うと大人まで加わって、半盲目の染物職人に残酷きわまるいたずらをしかける。 子供らは、家の中にいる時は大・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
出典:青空文庫