・・・ 結局は、やればやり得る学位を、無用な狐疑や第二義的な些末な考査からやり惜しみをするということが、こういう不祥事やあらゆる依怙沙汰の原因になるのである。たとえ多少の欠点はあるとしても、およそ神様でない人間のした事で欠点のないものは有り得・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・学者を尊敬しない世人、研究費を出し惜しみする実業家、予算を通さない政府の官僚、そう云ったようなものがどれだけ多くあっても科学の進歩する時はちゃんとするのである。 科学を奨励する目的で作られた機関が、自己の意志とは反対に、一生懸命科学の進・・・ 寺田寅彦 「スパーク」
・・・公園裏にて下り小路を入れば人の往来織るがごとく、壮士芝居あれば娘手踊あり、軽業カッポレ浪花踊、評判の江川の玉乗りにタッタ三銭を惜しみたまわぬ方々に満たされて囃子の音ただ八ヶまし。猿に餌をやるどれほど面白きか知らず。魚釣幾度か釣り損ねてようや・・・ 寺田寅彦 「半日ある記」
・・・こんな多勢の人達が悉皆出征なさる方に縁故のある人、別離を惜しみに此処に集ってお居でなさるのかと思ったら、私は胸が一杯になりましたの。『若子さん、中へは這入れそうもないことよ。』 各箇かの団体の、いろいろの彩布の大旗小旗の、それが朝風・・・ 広津柳浪 「昇降場」
・・・至純な愛が発露した時、若しあらゆる具体的表現が、自分の愛する者にとって、総てよい意味に必要である場合、勿論それは惜しみなく注がれるでしょう。然し、愛する者がそれを要としない場合、愛はその独自な本質から、自足して安らかな筈なのです。 これ・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・彼女はそれぞれに求められたものを惜しみなく与えたのだけれど、この肉体と精神との天賦ゆたかな女性はマークが彼女に求めただけで全部でなかったし、さりとて、ブレークが彼女のうちに目醒めさせたものがスーザンの全部でもなかった。彼女という一つのゆたか・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・全篇の構成をもっと研究し、ある部分ははるかに短縮され、ある部分は描写の場所をその必然にしたがっておきかえられ、ある箇所は、もっとリアリスティックにたっぷり惜しみない描写を与えられるべきである。そういう作品に即した根気づよい研鑽こそ階級人とし・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・ 宮島新三郎板垣鷹穂などは、同志小林の殉難を惜しみつつ、同志小林がその活動を文学的活動の範囲に止めておかなかったことを遺憾とし、または、今度のことにつけても作家同盟はよく考えて欲しいと云っている。彼等は、ボルシェヴィク作家としての同志小・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
一九二〇年三月二十二日 郡山は市に成ろうとして居る。桑野は当然その一部として併合されるべきものである。村の古老は、一種の郷土的愛から、その自治権を失うことを惜しみ、或者は村会議員として与えられて居た名誉職を手放す事をな・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・サント・ブウヴはその感情的基礎に我れ知らず作用されて、バルザックに対してはどちらかというと批評家としての自身の才能を活かしていない、言いかえれば出し惜しみをしているのであるが、バルザックの文体を「彼の文章の中には生き生きとはしているが、不十・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫