・・・ホーマーやダンテの多弁では到底描くことのできない真実を、つば元まできり込んで、西瓜を切るごとく、大木を倒すごとき意気込みをもって摘出し描写するのである。 この幻術の秘訣はどこにあるかと言えば、それは象徴の暗示によって読者の連想の活動を刺・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・べーリンスキーの批評文なども愛読していた時代だから、日本文明の裏面を描き出してやろうと云うような意気込みもあったので、あの作が、議論が土台になってるのも、つまりそんな訳からである。文章は、上巻の方は、三馬、風来、全交、饗庭さんなぞがごちゃ混・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・全く意気込んで、そこにきいている人たちの理解にかかわらず、今晩はこれをやるんだという意気込みかたでやっている。私は仔熊のような防寒靴をはいたまま、外套も着たまま腰かけてそれを聴いていて、好意を感じた。鼠色のフランネルの襯衣を着たりして、手の・・・ 宮本百合子 「映画」
・・・ 真向からの熱中、努力、緊張を意識した意気込みは必ず作品の、深静な生命の流動を妨げるものではあるまいか。ただ、真剣に頭に血を上らせて詰め寄せたとても徒労に終る、徒に鋭く、細かく、頭を働かせて事象を描こうとしても、写るものは影ばかりだ。計・・・ 宮本百合子 「透き徹る秋」
・・・激しい病と戦う若者を看護するような意気込みが無い。何でも活かそうという熱が湧かない。「どうだろう、」――漠然とした恐怖のない心配があるだけだ。 或る日、私は看護婦の入浴の間、祖母の傍にいた。火鉢の火が少くなって来た。台所に行ってガス火起・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
・・・人間共が、得意な意気込みで、これ見よがしに築き上げた文明の精神まで、一緒に焼き払ってくれたことだ。ミーダ 体も心も赤裸か、楽園を追われたアダムとイブと云いたいが、俺と云う憑きものがあるだけ、あの当時より複雑だ。カラ ああ私も、久しぶ・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・という単純な意気込みだけでもだめである。「瘠せ馬」であると林を歎息せしめた日本のブルジョア文学がなぜ瘠馬であるか、ゲーテはなぜゲーテであり得たのか、その歴史的必然性を、プロレタリアの世界観のみが把握しているところの唯物史観的国際性によって検・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
・・・ 作者が大いに視察記録しようと出かけた意気込みは、ほのかに分る。が、いざ実際、組織強固な帝国主義侵略軍の間にもまれて見ると、彼がどんなに内心びっくりし、臆病になり、完全にファッシズムに降参してしまっているかが文章の間からうかがわれる。・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫