・・・ぎょうぎょうしくて、しかも愚劣であったのは「恋人の日記」である。 映画における恋愛的な場面は、余程むずかしいものと思う。ヨーロッパ、アメリカの製作者たちの多くは、そういう場面となると何か特別ロマンティックな雰囲気、道具だてを必要とすると・・・ 宮本百合子 「映画の恋愛」
・・・などと叫ぶアナウンサアの声がわり込み、音楽と野球実景放送とがしばらくあやめも分らずもつれ合ったあげく、拡声器はブブブ、ヒューと、自身の愚劣さを嘲弄するように喚いて、終には一二分何も聞えないようになってしまうのであった。 ああいう沈黙生活・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・山の彼方の空を眺め、山の頂をはるかに通じる一筋の道を眺めたものにとって、窓をしめ、地球の円さは村境できれているように思いこみ、この村ばかりの優秀を誇るというのは、不自然で息苦しく愚劣にたえがたいしまつであった。徳川時代の民が土下座したとき、・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・東京帝大教授として、文部省の愚劣さを知りぬいていたから、そういうところからくれる博士号などは欲しくないと云って、ことわった。 同じ時、三宅雪嶺という哲学者が博士号をもらってうけた。ことわるほどのものでもなかろう、と笑って受けて、腹が大き・・・ 宮本百合子 「行為の価値」
・・・帝政時代のロシア兵営内の生活の愚劣野蛮な絶対主義を遺憾なく示している。「セメント」を上演した写実劇場は新しく「勇敢な兵士シュヴェイクの冒険」を脚色上演しはじめた。 これは、元オーストリア軍隊内の野蛮な腐敗とを諷刺的に描き出したチェッ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 私は愚劣なものの中からさえ役に立つものがあれば何か役に立つものを見出そうとする位、よくばりなのだから。まして。まして。恐らくあなたは御自分の字、字そのものよ、までが私にどの位必要なものであるかきっと御存知ないでしょう。 恐ろしい、・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・それは目に見える愚劣さだからである。けれども、文化に関する同じような愚劣さは、もっと複雑な、もっと形にあらわれない流れとなって私たちの生活へ浸潤して腐敗の作用を及ぼしてゆくために、同じ程度の奇怪な愚劣さでも案外恐れられずにいることが多い。・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・ 最近の二年間に多くの自立劇団、美術、音楽、詩、小説、科学のグループをもちはじめた日本の労働組合員は、彼らの休日の大きい楽しみである映画が、輸入ものかさもなければ愚劣な日本ものしかなくなるということについて、重大な関心を示している。映画・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・と、鳴る太鼓の音を空にきき流しつつ、軍国調モードを、どんなにシークにステープルファイバアからつくり出そうかと思案しているのが、今日の若い女のその日ぐらしの姿であるとしたら、若い婦人たちの誰が、その愚劣な一人として自分を描かれることに承知しよ・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・それに比べると趣味が上品できれいだとせられるIの製作は態度の不純のためにたまらなく愚劣に感じられる。彼は内心に喜んでいながら恥じたらしく装う。歓喜を苦痛として表現する。すべてが嘘である。――Kはその軟弱な意志のゆえに Aesthet として・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫