・・・絵なども、ただ高価ないい絵具を使っているというだけで、他に感服すべきところを発見できなかった。その兄が、その夏に、東京の同人雑誌なるものを、三十種類くらい持って来て、そうしてその頃はやりの、突如活字を大きくしたり、またわざと活字をさかさにし・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・要するに私は、話をして落ちつかない気持を起させる女は、みだら、とは言えないまでも、多少のお色気のある女として感服せず、そうして、平気で話合える女を、心の正しい人として尊敬していました。 ところで、その圭吾の嫁は、ほかのひとにはどうかわか・・・ 太宰治 「嘘」
・・・このごろは、友人の作品にも、ひたすら感服するように心掛けています。 これは、画の話ではありませんが、先日、新橋演舞場へ文楽を見に行きました。文楽は学生時代にいちど見たきりで、ほとんど十年振りだったものですから、れいの栄三、文五郎たちが、・・・ 太宰治 「炎天汗談」
・・・へ矢つぎ早に受け込んで、そして一々感服する方がとかく主になってしまって、何かしらしみじみと「胸」に滲み込んでくるような感じが容易には起りにくい。 どうもみんな単にうまい絵を描く事ばかり骨を折っているのではないかという疑いが起って来る。そ・・・ 寺田寅彦 「ある日の経験」
・・・技巧を主とした絵は一見その妙に酔わされ感服させられる。しかし先ず大抵の絵は少し永く見ていると直にそれほどの魅力はなくなる、そして往々一種の堪え難い浮薄な厭味が鼻につく場合も少なくない。技巧というものが畢竟それ限りのものであって、それ以上の何・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・これは大変な名誉なことであったが、これについて母に送った手紙には「試験官が私の書いたナンセンスに感服したのは可笑しい」とあった。この秋から彼は始めてストークスの光学の講義に出席し、特にその講義でやって見せる実験を喜んだ。ストークスの考え方や・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・彼の歿後ほとんど十年になろうとする今日、彼のわざわざ余のために描いた一輪の東菊の中に、確にこの一拙字を認める事のできたのは、その結果が余をして失笑せしむると、感服せしむるとに論なく、余にとっては多大の興味がある。ただ画がいかにも淋しい。でき・・・ 夏目漱石 「子規の画」
・・・ ちらほら人が立ちどまって見る、にやにや笑って行くものがある、向うの樫の木の下に乳母さんが小供をつれてロハ台に腰をかけてさっきからしきりに感服して見ている、何を感服しているのか分らない、おおかた流汗淋漓大童となって自転車と奮闘しつつある・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
本月の「趣味」に田山花袋君が小生に関してこんな事を云われた。――「夏目漱石君はズーデルマンの『カッツェンステッヒ』を評して、そのますます序を逐うて迫り来るがごとき点をひどく感服しておられる。氏の近作『三四郎』はこの筆法で往・・・ 夏目漱石 「田山花袋君に答う」
・・・妻も一処に怒りて争うは宜しからず、一時発作の病と視做し一時これを慰めて後に大に戒しむるは止むを得ざる処置なれども、其立腹の理非をも問わず唯恐れて順えとは、婦人は唯是れ男子の奴隷たるに過ぎず、感服す可らざるのみか、末段に女は夫を以て天とす云々・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
出典:青空文庫