・・・もとより一般から権威と認められる人がその所説を発表し主張するについては慎重でなければならぬ事は勿論であるが、如何なる人でも千慮の一失は免れ難い。万に一つの誤りをも恐るるならばむしろ一切意見の発表を止めねばならない。万一の誤りを教えてならない・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・だれの責任であるとか、ないとかいうあとの祭りのとがめ立てを開き直って子細らしくするよりももっともっとだいじなことは、今後いかにしてそういう災難を少なくするかを慎重に攻究することであろうと思われる。それには問題のつり橋のどの鋼索のどのへんが第・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・これはよほど慎重に考えてみなければならないかなり大事な問題である。 学者の中にも科学の応用に興味を有ち、その方面に特別の天賦を具えている人がある。また一方では純理的の興味から原理や事実の探究にのみ耽る人もある。中には両方面を併せて豊富に・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・かくのごとき場合には公算論の指示する統計的方法を取る外なかるべきも、公算が変数の連続函数なりと断定し難く、また最大公算を有する場合が唯一ならざる場合には特別に慎重なる考慮を要すべし。 地震予報をして天気予報のごとき程度まで有効ならしむる・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・ことにツェッペリンの襲英などに際しては気象状態に最も慎重な注意を払うは勿論であろう。それには英国側の観測が重要であるから、在英独探中にはこの方の係りも必ずあるだろうと想像される。 ついこの頃の雑誌で見ると、英国の気象局長ショー氏は軍事上・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
・・・ 地震による山崩れは勿論、颱風の豪雨で誘発される山津浪についても慎重に地を相する必要がある。海嘯については猶更である。大阪では安政の地震津浪で洗われた区域に構わず新市街を建てて、昭和九年の暴風による海嘯の洗礼を受けた。東京では先頃深川の・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・これは少なくも慎重な吟味を加えた後でなければ軽率に否定し去ることのできない問題であろう。のみならず、その環境によって生まれた自然の多様性がさらにまた二次的影響として上記の一次的効果に参加することも忘れてはならないのである。 植物界は動物・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・明暦三年の振袖火事では、毎日のように吹き続く北西気候風に乗じて江戸の大部分を焼き払うにはいかにすべきかを慎重に考究した結果ででもあるように本郷、小石川、麹町の三か所に相次いで三度に火を発している。由井正雪の残党が放火したのだという流言が行な・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・いわゆる責任ある地位に立って、慎重なる態度を以て国政を執る方々である。当路に立てば処士横議はたしかに厄介なものであろう。仕事をするには邪魔も払いたくなるはず。統一統一と目ざす鼻先に、謀叛の禁物は知れたことである。老人の※には、花火線香も爆烈・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ようにとおもっている日本のすべての男女は、ドイツやフランスやその他のあらゆる国々の人民とおなじに、世界を動かす強国の権力者たちが、それぞれのそろばん勘定はしばらくおいて、人類のためという見地から聰明に慎重に行動して、世界平和の確保にたいして・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
出典:青空文庫