東洋協會講演會に於いて、堯舜禹の實在的人物に非ざるべき卑見を述べてより已に三年、しかもこの大膽なる臆説は多くの儒家よりは一笑に附せられしが、林〔泰輔〕氏の篤學眞摯なる、前に『東洋哲學』に、近く『東亞研究』に、高説を披瀝して・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・そんな臆説も考えられる。 池に家鴨がただ一羽いる。それが何だか淋しそうである。家鴨は群れている方が家鴨らしく、白鳥は一、二羽の方が白鳥らしい。 夕方になって池の面が薄い霧のヴェールに蔽われるころになると何かしらほのかな花の匂いが一面・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
・・・試みに自分のあやしげな素人生理学の知識を基礎にして臆説を立ててみるとおおよそ次のようなことではないかと思う。 われわれが格別の具体的事由なしに憂鬱になったり快活になったりする心情の変化はある特殊の内分泌ホルモンの分泌量に支配されるもので・・・ 寺田寅彦 「五月の唯物観」
・・・これに対する答としては更に色々な学説や臆説が提出され得る。これが源因の第二段階である。例えば地殻の一部分にしかじかの圧力なり歪力なりが集積したために起ったものであるという判断である。 これらの学説が仮りに正しいとした時に、更に次の問題が・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・いような装飾物であるが、ずっと昔これらのものが非常に珍しいうまい御馳走であった時代があったので、その時代にこれらのものが特別なとっときの珍肴として持出され、そうして賞味され享楽されたものであろうという臆説が多数の承認を得たようであった。その・・・ 寺田寅彦 「新年雑俎」
・・・ それで、この方法を真に有効ならしむるには、むしろあらゆる独断、偏見、臆説をも初めから排する事なく、なるべくちがったものをことごとくひとまず取り入れて、すべての可能性を一つ一つ吟味しなければならない。軽々しい否定は早急な肯定よりもはるか・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・ 世間では、私の号に就ていろんな臆説を伝えているが、実際は今云った通りなんだ。いや、「仕舞え!」と云って命令した時には、全く仕舞う時節が有るだろうと思ったね。――その解決が付けば、まずそのライフだけは収まりが付くんだから。で、私の身にと・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
出典:青空文庫