・・・すなわち系の複雑さが完全に複雑になれば統計という事が成り立ち、公算というものが数量的に確定したものになる。そして系の変化はその状態の公算の大なるほうへ大なるほうへと進むという事が、すなわちエントロピーの増大という事と同義になるのである。・・・ 寺田寅彦 「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」
・・・それで各人が自分の感覚のみをたよって互いに矛盾した事を主張し合っている間は普遍的すなわちだれにも通用のできる事実は成り立たぬ、すなわち科学は成り立ち得ぬのである。 それで物質界に関する普遍的な知識を成立させるには第一に吾人の直接の感覚す・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・方則というものの成り立ちが前に述べたようなものであってみれば、すべての方則は近似的のものと云わなければなるまい。少なくとも近似的で無いという証拠はないようである。重力の方則は海王星の軌道以内には適用されるが、固体分子間の距離においても同様で・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・そうでなくては成り立ちそうもない学説やイズムがわれわれの目に触れるほどだから。 三越の四階に食堂がある、たしか以前は小さな室であったのが、その後拡張されて今のような大きな部屋になったと思う。ちょっと清潔に簡便に食欲を満足させ、そうして時・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・がった雑草が交代して占有する順序もおもしろく、年によって最もよく繁殖する草の種類を異にする事や、それが人間の干渉によって影響される模様や、少し立ち入って研究したら一種の「雑草学」が成り立ちそうである。それを書くときりがなくなるからここには略・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・恋を描くにローマン主義の場合では途中で、単に顔を合せたばかりで直ぐに恋情が成立ち、このために盲目になったり、跛足になったりして、煩悶懊悩するというようなことになる。しかしこんな事実は、実際あり得ない事である。其処が感激派の小説で、或情緒を誇・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・その階段を昇りながら考えつづけた――起死回生の霊薬なる六神丸が、その製造の当初に於て、その存在の最大にして且つ、唯一の理由なる生命の回復、或は持続を、平然と裏切って、却って之を殺戮することによってのみ成り立ち得る。とするならば、「六神丸それ・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・ 日本で、さわやかな両性の友情の成り立ちが困難な原因は、もう一つあると思う。それは、日本の婦人ぐらい欧米の男にだまされやすい女性はないという、その現実の源泉と社会的な性質では全く同じもので、日本の女性たちの日常は、どちらかというと男から・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・現代の日々は、そういう独善の文学的境地というものの成り立ちを不可能にしている。文学はもっと社会的にその世界をひろげ豊かにしなければならないという要求から、長篇や社会小説が求められたのであった。その要求は一つの必然に立つものではあったが、さき・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・究会は、職業組合ソヴェトの統制の下に、どしどし新しい技術と俳優で、その五ヵ年計画に参加しているが、婦人労働者の中からも当然新らしい政治意識をもった、まるでこれまでのブルジョア的な残り物を持った女優とは成立ちから違う女優が出つつある。 こ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の芝居・キネマ・ラジオ」
出典:青空文庫