・・・彼の妻の耶輸陀羅だったか、容易に断定は出来ないかも知れない。 又 悉達多は六年の苦行の後、菩提樹下に正覚に達した。彼の成道の伝説は如何に物質の精神を支配するかを語るものである。彼はまず水浴している。それから乳糜を食してい・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・世尊さえ成道される時には、牧牛の女難陀婆羅の、乳糜の供養を受けられたではないか? もしあの時空腹のまま、畢波羅樹下に坐っていられたら、第六天の魔王波旬は、三人の魔女なぞを遣すよりも、六牙象王の味噌漬けだの、天竜八部の粕漬けだの、天竺の珍味を・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・この思想の方嚮を一口に言えば、懐疑が修行で、虚無が成道である。この方嚮から見ると、少しでも積極的な事を言うものは、時代後れの馬鹿ものか、そうでなければ嘘衝きでなくてはならない。 次に人の目に附いたのは、衝動生活、就中性欲方面の生活を書く・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
出典:青空文庫