・・・ 浅間敷くサタン奴に魅入られた欲心に後押しされて他人のものをことわりなしに我家に持ちかえった事をとがめられて、厳な司法官の宣告書にふるえの止まらぬ体をそのままただ一坪の四方は皆叩いても音の出ぬ石のただ一つ小窓の開いた牢獄につながれた時の・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・ そのポチの、鼻の先に我家を眺めながら寝込んだどこやら呑気な性質が愛嬌で、その後も、思い出してはやって来た。 ポチが潜るのも面倒がる程、土用の間に裏の夏草は高くなった。コスモスの葉も見える。あの根方の茂みには蛇も昼寝するであろう。・・・ 宮本百合子 「蓮花図」
・・・にある「我国をほろぼし我家をやぶる大将」の四類型をあげてみよう。 第一は、ばかなる大将、鈍過ぎたる大将である。ここでばかというのは智能が足りないということではない。才能すぐれ、意志強く、武芸も人にまさっている、というような人でも、ばかな・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫