・・・…… そこで、急いで我が屋へ帰って、不断、常住、無益な殺生を、するな、なせそと戒める、古女房の老巫女に、しおしおと、青くなって次第を話して、……その筋へなのって出るのに、すぐに梁へ掛けたそうに褌をしめなおすと、梓の弓を看板に掛けて家業に・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・ オリジナリティの無いと称せらるる国の昔話に人まねを戒める説話の多いのも興味のあることである。 それから、また労働争議というはなはだオリジナルでない運動の中からこういう個性的にオリジナルなものが出現して喝采を博したのもまた一つの不思・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・それでこそ例えば津浪を戒める碑を建てておいても相当な利き目があったのであるが、これから先の日本ではそれがどうであるか甚だ心細いような気がする。二千年来伝わった日本人の魂でさえも、打砕いて夷狄の犬に喰わせようという人も少なくない世の中である。・・・ 寺田寅彦 「津浪と人間」
・・・親が、子供のいう事を聞かぬ時は、二十四孝を引き出して子供を戒めると、子供は閉口するというような風であります。それで昔は上の方には束縛がなくて、上の下に対する束縛がある、これは能くない、親が子に対する理想はあるが子が親に対する理想はなかった。・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・傍聴券が出されたと云う事も彼女一つの例を以て、多くの他の場合を戒めるという意味であったのでしょうが、暁子が若し心の底から自分の境遇と結果について述べる力を持っていたならば、彼女の云いたかった事は何でありましょう。私共は此の事を考えて見ないで・・・ 宮本百合子 「「女の一生」と志賀暁子の場合」
出典:青空文庫