・・・戦いは敗れ、国は削られ、国民の意気鎖沈しなにごとにも手のつかざるときに、かかるときに国民の真の価値は判明するのであります。戦勝国の戦後の経営はどんなつまらない政治家にもできます、国威宣揚にともなう事業の発展はどんなつまらない実業家にもできま・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・ しかし、また一方、この同じ心理がたとえば戦時における祖国愛と敵愾心とによって善導されればそれによって国難を救い戦勝の栄冠を獲得せしめることにもなるであろう。 しかしまた、同じような考え方からすれば、結局ナポレオンも、レーニンも、ム・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・ 騒擾の際に敵味方相対し、その敵の中に謀臣ありて平和の説を唱え、たとい弐心を抱かざるも味方に利するところあれば、その時にはこれを奇貨として私にその人を厚遇すれども、干戈すでに収まりて戦勝の主領が社会の秩序を重んじ、新政府の基礎を固くして・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・華々しく語られている戦勝への希望の裏にこういう現実がいたるところに満ちているということを、その場で暮した青年達で目撃しなかった人達があるだろうか。そのことによって、嫌悪と疑問とを感じない人はなかったと思う。この偽りない気持の中にこそ、それら・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・日露戦争後、戦勝とともに日本の文化に滲透して来た自然主義の主張というものも、今日顧みればこの文芸思想の発生地であるフランスにおける理解、文学的成果と日本のそれとの間には微妙な変化が認められる。日本では、馬琴流の、封建的な道徳観に対する反撥と・・・ 宮本百合子 「「土」と当時の写実文学」
・・・その祝祭は、様々の戦勝追憶談として華々しく新聞雑誌に連載されている。けれども、この三十年間に、われわれの住んでいる階級、社会はどのように推移して来たことであろう! ごく小さい形をとってあらわれた例をとって見ても、一方に東郷良子の女給ぐらしが・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・しかし、おれはアルコール橋の戦勝者 若きボナパルト将軍伝の話の方なら血がわきたつのだ。それがおれにはホメロスでもありタッソーでもある。以下 p.83 p.85p.85 しかし一方民衆におべっかを使うなどということは、おれの力じゃ到底・・・ 宮本百合子 「「緑の騎士」ノート」
・・・ こうして、現実の敗北と架空な戦勝との不思議な絡い合せのまま時が経つうちに、その矛盾の間から、深刻な社会問題が生れて来た。大河内一男教授が帝大新聞に青少年の犯罪の増加について書かれたことがあった。国民学校の上級生から中学、専門学校に至る・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫