・・・蔓頭の葛藤、截断し去る。咄。 芥川竜之介 「るしへる」
・・・によって撮影を進行させ、出たとこ勝負のショットをたくさんに集積した上で、その中から截断したカッティングをモンタージュにかけて立派なものを作ることも可能であろうが、経済的の考慮から、そういう気楽な方法はいつでもどこでも許されるはずのものではな・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
いつかある大新聞社の工場を見学に行ってあの高速度輪転機の前面を瀑布のごとく流れ落ちる新聞紙の帯が、截断され折り畳まれ積み上げられて行く光景を見ていたとき、なるほどこれではジャーナリズムが世界に氾濫するのも当然だという気がし・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・ 俳諧は截断の芸術であることは生花の芸術と同様である。また岡倉氏が「茶の本」の中に「茶道は美を見いださんがために美を隠す術であり、現わす事をはばかるようなものをほのめかす術である」と言っているのも同じことで、畢竟は前記の風雅の道に立った・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・これは明らかに強風のために途上の木竹片あるいは砂粒のごときものが高速度で衝突するために皮膚が截断されるのである。旋風内の最高風速はよくはわからないが毎秒七八十メートルを越える事も珍しくはないらしい。弾丸の速度に比べれば問題になら・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・前後を截断して、過去未来を失念したる間にただギニヴィアの形のみがありありと見える。 機微の邃きを照らす鏡は、女の有てる凡てのうちにて、尤も明かなるものという。苦しきに堪えかねて、われとわが頭を抑えたるギニヴィアを打ち守る人の心は、飛ぶ鳥・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・は母性と私有財産制のみっともない結びつきを革命的に截断し、がっちり社会主義社会連帯の間に母性を組みなおした。職業組合に属さぬ勤労婦人はない。生れて、彼を社会成員として受けいれる組織をもたぬ赤坊はない。 これだけのことを知って、みなさん、・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・「横光の自我は現実を截断する力がないから未完成である」と。普通の言葉でこれを云うと、横光氏の生活、思想態度は頭の中でだけ描かれ組立てられていて、現実の矛盾にとり組む芸術的リアリティーをもっていないから未しであるという意味なのである。 か・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・は、恒久な意識の流れを截断した瞬間的断面だと云えるならば、「私」も亦、伝説が、日本の神人を語るより以前からの「日本人」の一断面ではないだろうか。私は今、紐育の町中に居る。私の足の下には靴の皮がある。キルクの床がある。石とコンクリートの下には・・・ 宮本百合子 「無題」
・・・その案を思いついた人々は、明らかに今日というものから見た歴史をその立場からの解義によって判断して、古典を截断し、ふさわしいと考えられるものにした次第であろう。 このように錯雑した現実の中にある現代の文学としては、云ってみれば、文学と歴史・・・ 宮本百合子 「歴史と文学」
出典:青空文庫