・・・ それは問題の所在と、その難点とを突き止め、これが解決の方法を示唆するものだからである。たとい満足な解決が与えられなくとも、解決の方法をつくし、その難点と及び限界とを良心的に示してくれるならば、われわれは深き感謝を持たねばならぬ。徹頭徹・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・ 五 じいさんは所在なさに退屈がって、家の前にある三坪ほどの空地をいじった。「あの鍬をやってしまわずに、一挺持って来たらよかったんじゃがな。」「自分が勝手にやっといて、またあとでそんなこと云いよら。」ばあさ・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
・・・客はなんにも所在がないから江戸のあの燈は何処の燈だろうなどと、江戸が近くなるにつけて江戸の方を見、それからずいと東の方を見ますと、――今漕いでいるのは少しでも潮が上から押すのですから、澪を外れた、つまり水の抵抗の少い処を漕いでいるのでしたが・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・日本は思いのほかにせまくるしく、エドは虫に食われて、その所在をたしかめることさえできなかった。 シロオテは、コンパスをあちらこちらと歩かせつつ、万国のめずらしい話を語って聞かせた。黄金の産する国。たんばこの実る国。海鯨の住む大洋。木に棲・・・ 太宰治 「地球図」
・・・高等学校の生徒である。すでにもう大人になった気持である。芸者買いしたって、学校から罰せられることもなかったし、私は、今こそと思った。高等学校の所在するその城下まちから、浪のいる筈のAという小都会までは、汽車で一時間くらいで行ける。私は出掛け・・・ 太宰治 「デカダン抗議」
・・・ 材木の切り出し作業や製紙工場の光景でも、ちょっと簡単な地図でも途中に插入して具体的の位置所在を示しならびに季節をも示してくれたら、興味も効能も幾層倍するであろう。しかるに、その肝心な空間的時間的な座標軸を抜きにして、いたずらに縹渺たる・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・何度繰り返して読んでみても、何を言うつもりなのかほとんどわからないような論文中の一節があれば、それは実はやはり書いた人にもよくわかっていない、条理混雑した欠陥の所在を標示するのが通例である。これと反対に、読んでおのずから胸の透くような箇所が・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・それから一年くらいはその寒暖計が風呂場のどこかの隅に所在なさそうにころがっていたようであったが、いつ無くなるともなく見えなくなってしまってそれっきり永久に消えてなくなってしまったのである。これは適者生存自然淘汰の原理によって、元来寒暖計など・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・ そのころ、わたくしはわが日誌にむかしあって後に埋められた市中溝川の所在を心覚に識して置いたことがある。即次の如くである。 京橋区内では○木挽町一、二丁目辺の浅利河岸○新富町旧新富座裏を流れて築地川に入る溝渠○明石町旧居留地の中央を・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・その頃年少のわたくしがこの寺の所在を知ったのは宮戸座の役者たちが新比翼塚なるものに香華を手向けた話をきいた事からであった。新比翼塚は明治十二、三年のころ品川楼で情死をした遊女盛糸と内務省の小吏谷豊栄二人の追善に建てられたのである。(因にいう・・・ 永井荷風 「里の今昔」
出典:青空文庫