一 ある田舎に光治という十二歳になる男の子がありました。光治は毎日村の小学校へいっていました。彼は、いたっておとなしい性質で、自分のほうからほかのものに手出しをしてけんかをしたり、悪口をいったりしたことがありません。けれど、どこ・・・ 小川未明 「どこで笛吹く」
・・・ 学校へゆくときも四人はそろって太郎にあったら、必死となって戦う覚悟でありましたから、太郎は、それを見てとってか容易に手出しをいたしませんでした。 こうなると甲・乙・丙・丁らは、まったく自分らが勝ったものと思いました。そして家に帰る・・・ 小川未明 「雪の国と太郎」
・・・ プロレタリアの国に喰い下ろうとするブルジョアどもも何も手出しができやしなかったのだ!」と考えていた。「よろしく、今のうちにその根から掘取りおくべしだ!」 黒島伝治 「国境」
・・・仕ないけれ共、漸う育ち掛けて来た感情の最大限の愛情を持って対した私と、宗教的に馴練されたどちらかと云えば重苦しい厳粛な愛情を注いで居た彼との間に行き交うて居た気持は、極く単純ではあったにしろ他の何人の手出しも許されない純なものであった事を思・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・討手でないのに、阿部が屋敷に入り込んで手出しをすることは厳禁であるが、落人は勝手に討ち取れというのが二つであった。 阿部一族は討手の向う日をその前日に聞き知って、まず邸内を隈なく掃除し、見苦しい物はことごとく焼きすてた。それから老若打ち・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫