･･･という論文を読まされたことなどを、どういう手続をもって承認すればいいのであるか。それらの矛盾は、ただに一見して矛盾に見えるばかりでなく、見れば見るほどどこまでも矛盾しているのである。かくて今や「自然主義」という言葉は、刻一刻に身体も顔も変っ･･･ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
･･･それは、実感を詩に歌うまでには、ずいぶん煩瑣な手続を要したということである。たとえば、ちょっとした空地に高さ一丈ぐらいの木が立っていて、それに日があたっているのを見てある感じを得たとすれば、空地を広野にし、木を大木にし、日を朝日か夕日にし、･･･ 石川啄木 「弓町より」
･･･その手続きはどうでも好い事だから、申しません。わたくしはその男の妻だと、只今まで思っていた女です。わたくしはあなたの人柄を推察して、こう思います。あなたは決して自分のなすった事の成行がどうなろうと、その成行のために、前になすった事の責を負わ･･･ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
･･･ 施薬をうけるものは、区役所、町村役場、警察の証明書をもって出頭すべし、施薬と見舞金十円はそれぞれ区役所、町村役場、警察の手を通じて手交するという煩雑な手続きを必要とした魂胆に就いては、しばらくおくとしても、あの仰々しい施薬広告はいった･･･ 織田作之助 「勧善懲悪」
･･･だって、まさか、そんな乱暴なことしやしないだろうがね、それは元々の契約というものは、君が万一家賃を払えない場合には造作を取上げるとか家を釘附けにするとかいうことになって居るんではないのだからね、相当の手続を要することなんで、そんな無法なこと･･･ 葛西善蔵 「子をつれて」
･･･ 五月十五日 どうして手提革包を拾ったかその手続まで詳わしく書くにも当るまい。ただ拾ったので、足にぶつかったから拾ったので、拾って取上げて見ると手提革包であったのである。 拾うと直ぐ、金銭！ という一念が自分の頭にひらめいた。占･･･ 国木田独歩 「酒中日記」
･･･ 食後に、お玉は退院の手続きやら何やらでいそがしかった。にわかにおげんの部屋も活気づいた。若い気軽な看護婦達はおげんが退院の手伝いするために、長い廊下を往ったり来たりした。「小山さん、いよいよ御退院でお目出とうございます」 と年･･･ 島崎藤村 「ある女の生涯」
･･･その手続はどうでも好いことだから、申しません。わたくしはその男の妻だと、只今まで思っていた女です。わたくしはあなたの人柄を推察して、こう思います。あなたは決して自分のなすった事の成行がどうなろうと、その成行のために、前になすった事の責を負わ･･･ 太宰治 「女の決闘」
･･･交番へ行って応急米の手続きもして置いたのだ。お酒は、その朝、世田谷の姉のところへ行って配給の酒をゆずってもらって来たのだ。けれども、そんな実情を打明けたら、客は居心地の悪い思いをする。大隅君は、結婚式の日まで一週間、私の家に滞在する事になっ･･･ 太宰治 「佳日」
･･･それには、どんな手続きが必要でしょうか。偉大なる霊魂はただ偉大なる霊魂によって発見せられるのみであると、辻潤が言っています。私は、少しポンチを画く才能をもち、文学に対する敏感さをも、持っています。上品な育ちです。けれども、少しヘンテコです。･･･ 太宰治 「虚構の春」
出典：青空文庫
