・・・ 清少納言という人は当時の女流の文筆家の中でも才気煥発な、直感の鋭い才媛であったことは枕草子のあらゆる描写の鮮明さ、独自な着眼点などで誰しも肯うところだと思う。枕草子の散文として独特な形そのものも清少納言の刹那に鋭く働いた感覚が反映・・・ 宮本百合子 「山の彼方は」
・・・などの中に、いわゆる才気煥発で、美しくもあり、当時にあって外国語の小説などを読む女を、それとは反対に自然に咲いている草花のような従来の娘と対置して描いているのは、注目をひくところである。今日の私たちの心持から見ると、漱石が描いた藤尾にしろ、・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
・・・ 大迫さんの才気のある筆は、明快にときに皮肉に娘さん心理のいろいろな面を描き出しているのだけれど、私はひそかな疑問を感じた。娘さんたちはこの本をよんで、いろいろな点全くだわと共感しつつ同時に何となく物足りない底の足りないような感じを心の・・・ 宮本百合子 「若い婦人の著書二つ」
・・・顔も觀骨が稍出張っているのが疵であるが、眉や目の間に才気が溢れて見える。伊織は武芸が出来、学問の嗜もあって、色の白い美男である。只この人には肝癪持と云う病があるだけである。さて二人が夫婦になったところが、るんはひどく夫を好いて、手に据えるよ・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
・・・学殖は弟に劣っていても、才気の鋭い若者であったのに、とかく病気で、とうとう二十六歳で死んだのである。仲平は訃音を得て、すぐに大阪を立って帰った。 その後仲平は二十六で江戸に出て、古賀こがとうあんの門下に籍をおいて、昌平黌に入った。後世の・・・ 森鴎外 「安井夫人」
・・・それに反してあの写真の男の額からは、才気が毫光のさすように溢れて出ているでしょう。どうしてもわたくしのどこをあなたが好いて下さるか分からなかったのです。そこでわたくしは必死になってあの写真と競争してみる気になったのです。 女。それも分か・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
出典:青空文庫