・・・自然はやはりその恋人にのみ真心を打ち明けるものである。 科学の歴史はある意味では錯覚と失策の歴史である。偉大なる迂愚者の頭の悪い能率の悪い仕事の歴史である。 頭のいい人は批評家に適するが行為の人にはなりにくい。すべての行為には危険が・・・ 寺田寅彦 「科学者とあたま」
・・・父との対話が、ヨオロッパから帰って、もう一年にもなるのに、とかく対陣している両軍が、双方から斥候を出して、その斥候が敵の影を認める度に、遠方から射撃して還るように、はかばかしい衝突もせぬ代りに、平和に打ち明けることもなくているのは、こう云う・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ところで何を打ち明けるにも、微かな溜息とか、詞のちょいとした不思議な調子とか云うものしか持ち合せない女が、まだ八分通りしか迷っていなかったのでございますからね。男。そうですか。ああ。そうでしたか。わたくしは馬鹿ですなあ。貴夫人。そこ・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「辻馬車」
出典:青空文庫