・・・ 白城の城主狼のルーファスと夜鴉の城主とは二十年来の好みで家の子郎党の末に至るまで互に往き来せぬは稀な位打ち解けた間柄であった。確執の起ったのは去年の春の初からである。源因は私ならぬ政治上の紛議の果とも云い、あるは鷹狩の帰りに獲物争いの・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・これを発明して実行の先例を示したりなどいうべき跡はなけれども、今日の実際について見れば、主人の内行修まらざる者は、その家風の外面は必ず厳重にして、家族骨肉の間、自然に他人の交際の如く、何か互いに隠して打ち解けざるものあるが如し。あるいはまた・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 最う少しパーッとした処が有れば好いがと思わないでは無かったが努めて打ち解けさせ様とする気にもなれないで居た。 孝ちゃんの親父さんと云う人は何処かの銀行へ出て居るのだと子供達が云って居るが、そんな人には似合わない、地味なしまった生活・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・決して打ち解けない。而も、自分にとっては、真に真に思いも設けない絶交まで申し渡される。――「其は、百合ちゃんは、誰よりもよく自分の心を解って呉れるのは事実だ。けれども、正直に云えば、此心持は、僕にどれ程深いショックを与えたか、解らないの・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・と権兵衛は言ったが、打ち解けた様子もない。権兵衛は弟どもを心にいたわってはいるが、やさしく物をいわれぬ男である。それに何事も一人で考えて、一人でしたがる。相談というものをめったにしない。それで弥五兵衛も市太夫も念を押したのである。「兄い・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫