・・・何しろ夕霧と云い、浮橋と云い、島原や撞木町の名高い太夫たちでも、内蔵助と云えば、下にも置かぬように扱うと云う騒ぎでございましたから。」 内蔵助は、こう云う十内の話を、殆ど侮蔑されたような心もちで、苦々しく聞いていた。と同時にまた、昔の放・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・重大に扱うのは莫迦莫迦しい。重大に扱わなければ危険である。 又 人生は落丁の多い書物に似ている。一部を成すとは称し難い。しかし兎に角一部を成している。 或自警団員の言葉 さあ、自警の部署に就こう。今夜・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・「よい、よい、遠くなり、近くなり、あの破鐘を持扱う雑作に及ばぬ。お山の草叢から、黄腹、赤背の山鱗どもを、綯交ぜに、三筋の処を走らせ、あの踊りの足許へ、茄子畑から、にょっにょっと、蹴出す白脛へ搦ましょう。」この時の白髪は動いた。「・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・故郷の市場の雑貨店で、これを扱うものがあって、私の祖父――地方の狂言師が食うにこまって、手内職にすいた出来上がりのこの網を、使で持って行ったのを思い出して――もう国に帰ろうか――また涙が出る。とその涙が甘いのです。餅か、団子か、お雪さんが待・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・桃、栗、柿、大得意で、烏や鳶は、むしゃむしゃと裂いて鱠だし、蝸牛虫やなめくじは刺身に扱う。春は若草、薺、茅花、つくつくしのお精進……蕪を噛る。牛蒡、人参は縦に啣える。 この、秋はまたいつも、食通大得意、というものは、木の実時なり、実り頃・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・処で、はじめは、凡俳、と名のったが、俳句を遊戯に扱うと、近来は誰も附合わない。第一なぐられかねない。見ずや、きみ、やかなの鋭き匕首をもって、骨を削り、肉を裂いて、人性の機微を剔き、十七文字で、大自然の深奥を衝こうという意気込の、先輩ならびに・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・――俗間で、濫に扱うべきでないと、もっともな分別です。すぐに近間の山寺へ――浜方一同から預ける事にしました。が、三日も経たないのに、寺から世話人に返して来ました。預った夜から、いままでに覚えない、凄じい鼠の荒れ方で、何と、昼も騒ぐ。……それ・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・同時に自分を案外安く扱う世間の声が耳に入ると不愉快で堪らなくなって愚痴を覆すようになった。緑雨の愚痴は壱岐殿坂時代から初まったが、それ以後失意となればなるほど世間の影口に対する弁明即ち愚痴がいよいよ多くなった。私が緑雨と次第に疎遠になったの・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・野乗を何万巻となく読破した翁ではあるが、これほど我を忘れて夢中になった例は余り多くなかったので、さしもの翁も我を折って作者を見縊って冷遇した前非を悔い、早速詫び手紙を書こうと思うと、山出しの芋掘書生を扱う了簡でドコの誰とも訊いて置かなかった・・・ 内田魯庵 「露伴の出世咄」
・・・そして、大事に扱うから、ちょっとあほう鳥を学校へ貸してくれないかと頼みました。男は、あほう鳥をひとり手放すのを気遣って、自分も学校まで先生といっしょについていきました。 こんなことから、男は、多数の生徒らに向かって、昔、南のある町を歩い・・・ 小川未明 「あほう鳥の鳴く日」
出典:青空文庫