・・・「なおあなたの御話を承る必要もあるものですから、――」 戸沢は博士に問われる通り、ここ一週間ばかりのお律の容態を可成詳細に説明した。慎太郎には薄い博士の眉が、戸沢の処方を聞いた時、かすかに動いたのが気がかりだった。 しかしその話・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・唐突の儀を承る。弱ったな、何だろう、といっちゃなお悪いかな、誰だろう。」「ほんとに忘れたんですか。それで可いんですか。嘘でしょう。それだとあんまりじゃありませんか。いっそちゃんと言いますよ、私から。――そういっても釣出しにかかって私の方・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・「――これは異なることを承る。拙者の頼み様がよろしからずとは、何をもって左様申されるか」 と、満右衛門が詰め寄ると、「――貴方は、御主人の大切な用を頼むのに、手をお下げにならん。普通なら、両手を爾と突いて、額を下げて頼むところで・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・幼少の時より手につけたる者なれば、血統に非ざるも自然に養父母の気象を承るは、あまねく人の知る所にして、家風の人心を変化すること有力なるものというべし。 また、戦国の世にはすべて武人多くして、出家の僧侶にいたるまでも干戈を事としたるは、叡・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・いつも翁に何か言われると、謹んで承るという風になっている少女らに、直接に言うことはもちろん出来ない。外舅外姑が亡くなってからは、川添の家には卑属しかいないから、翁がうかと言い出しては、先方で当惑するかも知れない。他人同士では、こういう話を持・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫