・・・このときに到っても、やはり葉子の中にあって彼女を一層混乱させ、非条理に陥らせている封建的な道徳感への屈伏を作者は抉り出すことに成功してはいないのである。 葉子の恋愛の描写の中に感銘を与えられることがもう一つある。それは作者が、恋愛という・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・そのちがいが現実に作用しているだけ深刻巨大なちがいとしては抉り出されていない。漱石の教養の歴史性の片影は、こういう点にも見られるのである。 鴎外は漱石とまたちがい、この文学者のドイツ・ロマン派の教養や医者としての教養や、政府の大官として・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・のものさえ蹂躙しつつ、階級社会の時々刻々の現実生活はどのようにわれわれをゆがめ、才能や天分を枯渇せしめているかという憤ろしい今日の実際を、ローゼンタールの生活と文学における性格の研究の論文はくっきりと抉り出しているのである。 このほか「・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・ 鍵がかかって居るのを、無理に何か道具でこじあけたと見えて、金具はガタガタになり、桐の軟かい材には無残な抉り傷がついて居る。 これには、母がまだお嬢様だった時分、書いたものや、繍ったもの、また故皇太后陛下からの頂戴ものその他一寸した・・・ 宮本百合子 「盗難」
出典:青空文庫