・・・縦に突こんで、現実が把握されていない。通州の事件について書いている尾崎士郎氏と山本実彦氏の文章の対比はこの点について教えるところがある。山本氏が持っているものは、どちらかと云えば政治家風な通であって、新しい内容での客観的知識、科学的知識では・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・一九二八年の春の終りに書いたモスクワ印象記では、まだ階級としてのプロレタリアートの勝利の意味を把握していなかったわたしが三〇年には、明瞭にその観点に立って書いていることも、二篇を対比してみて、興味がある。「ロンドン一九二九年」も一九二九・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・中産階級やインテリゲンツィアの革命性とその価値について十分把握していなかった当時のプロレタリア文学の側は、「伸子」を全く無視していたように思われる。ひとくちに云えば、作者は無産階級の作家ではなかったから。まじめな「伸子」の批判も見なかったし・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・ 下らぬもの、卑しいものに対して、勝利する新しい世界観というものを明瞭に把握してわれわれに示してはくれない。 そこに、彼の生きたロシアの革命的沈滞期の社会が明かに反映しているのである。 もっと後の時代でも、例えばドイツの漫画家グ・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・ 恋愛というものは、この社会の歴史の現実のなかで、男と女とが相互的ないきさつでおかれている矛盾や対立やについて、客観的にそれを把握した生活態度がきまっていなくても生じると思う。矛盾そのものの発現としてさえ、恋愛はあらわれ得る。けれども、・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・ 作者の非プロレタリア的現実把握が微妙に右の一二行によって暴露されている。即ち、チャーリーの本当の気分は恐慌によって弱くなっているのだが、宣伝のためには有利だと、まるで第二インターナショナルの職業的社会主義者のように、切迫した恐慌による・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・しかも、歩きだしつつあるそれらの瞳のうちに、なにか自身を把握しきっていない一種の光りが見られるのは、なぜだろうか。 社会全般のこととしていえば、この数ヵ月間の推移によって、過去数十年、あるいは数百年、習慣的な不動なものと思われてきた多く・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・に於けるが如く、プロットの進行に時間観念を忘却させ、より自我の核心を把握して構成派的力学形式をとることに於て、表現派とダダイズムは例えば今東光氏の諸作に於けるが如く、石浜金作氏の近作に於けるが如く、時間空間の観念無視のみならず一切の形式破壊・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・ 彼女の把握力が、生涯の力を籠めて、彼の手の中へ入り込んで来た。「あなた、あたし、もう死んでよ。」と妻はいった。「もうちょっと、待てないか。」と彼はいった。「あたし、苦しいの。あなたより、さきに死んで、済まないわね。」 ・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・ 一、二の例をあげれば、人形使いが人形の構造そのものによって最も強く把握しているのは、首の動作である。特に首を左右に動かす動作である。これは人形使いの左手の手首によって最も繊細に実現せられる。それによってうつ向いた顔も仰向いた顔も霊妙な・・・ 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
出典:青空文庫