・・・ と言って、またコツンと笠井氏の頭を殴りましたが、笠井氏は、なんにも抵抗せず、ふらふら起き上って、「男類、女類、猿類、いや、女類、男類、猿類の順か、いや、猿類、男類、女類かな? いや、いや、猿類、女類、男類の順か。ああ、痛え。乱暴は・・・ 太宰治 「女類」
・・・ 蠅がばいきんをまきちらす、そうしてわれわれは知らずに、年中少しずつそれらのばいきんを吸い込みのみ込んでいるために、自然にそれらに対する抵抗力をわれわれの体中に養成しているのかもしれない。そのおかげで、何かの機会に蠅以外の媒介によって、・・・ 寺田寅彦 「蛆の効用」
・・・この空中反転作用は花冠の特有な形態による空気の抵抗のはたらき方、花の重心の位置、花の慣性能率等によって決定されることはもちろんである。それでもし虻が花の蕊の上にしがみついてそのままに落下すると、虫のために全体の重心がいくらか移動しその結果は・・・ 寺田寅彦 「思い出草」
・・・シーメンスが提出した白金抵抗寒暖計はいったん放棄されて、二十年後にカレンダー、グリフィスの手によって復活した。このような類例を探せばまだいくらでもあるだろう。新しい芸術的革命運動の影には却って古い芸術の復活が随伴するように、新しい科学が昔の・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・ 無論、此女に抵抗力がある筈がない。娼妓は法律的に抵抗力を奪われているが、此場合は生理的に奪われているのだ。それに此女だって性慾の満足のためには、屍姦よりはいいのだ。何と云っても未だ体温を保っているんだからな。それに一番困ったことには、・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・かつ今日の世界は西洋文明の風に吹かれてこれに抵抗すべからざるの時勢なれば、文明の風に多妻多男を嫌忌して、そのこれを嫌忌するの成跡は甚だ美にして、今日の人の家を成し国を立つるに最も適当し、これに反するものは必ず害を被りて免るべからざること、既・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・すなわち徳川家の末路に、家臣の一部分が早く大事の去るを悟り、敵に向てかつて抵抗を試みず、ひたすら和を講じて自から家を解きたるは、日本の経済において一時の利益を成したりといえども、数百千年養い得たる我日本武士の気風を傷うたるの不利は決して少々・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・そのたたかいの気迫、抵抗の猛勇な精神は、その情勢の中では「過渡期の道標」のようなタッチでは表現されなかった。著者は階級的な社会発展とその文学理論の要石をつよくしっかり据えようと奮闘している。 新鮮な階級的な知性と実践的な生の脈うちとで鳴・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・それに抵抗して日本の理性と学問、文化の自立を主張する動きは、全日本の規模で全学問の分野を包含した。生きる自由、学び、働き、良心に従って行動する自由とともに、人権の一つとして奪われた理性を回復しようとする日本の青春の奮闘がある。すべての人々に・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・この内部の力に対しては自分も非常な恐怖を抱いていながら、その魔力に抵抗することはできないのだ。これがデュウゼをして半狂のヒステリカルな女を得意とせしめたのである。 デュウゼを見た多くの人はその芸を芸術としては見なかった。苦痛のために烈し・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫